第35回日本医療薬学会年会 メディカルセミナー(ランチョンセミナー)
株式会社日立ハイテク/株式会社日立ハイテクアナリシス共催
座長:松尾 裕彰 氏 広島大学病院 薬剤部
株式会社日立ハイテクと株式会社日立ハイテクアナリシス(旧・株式会社日立ハイテクサイエンス)は共催で、第35回日本医療薬学会年会においてメディカルセミナー(ランチョンセミナー)「『うちでもデキル!』『私でもデキル!!』タイムリーなTDMの実践!!! Part4」を2025年11月23日、神戸国際展示場(兵庫県神戸市中央区)で開催した。
座長は松尾裕彰氏(広島大学病院 薬剤部)、演者は緒方進氏(社会保険大牟田天領病院 薬剤部)、中川潤一氏(弘前大学医学部附属病院 薬学部・臨床研究推進センター)が務めた。
実施日 2025年11月23日(日)
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演題 1
~バンコマイシンとボリコナゾールの自施設測定の実際と効果~
緒方 進 氏 社会保険大牟田天領病院 薬剤部
社会保険医療協会大牟田天領病院は、一般病床161床(HCU8床を含む)、地域包括ケア病床48床、回復リハビリテーション病床120床、障害者病床60床を有する中規模のケアミックス型病院である。同院がある大牟田市は熊本県と接し、現在の人口は約10万人規模で、高齢化率は約38%に及んでいるため高齢者の入院が多い施設である。
緒方氏は熊本大学病院薬剤部が(株)日立ハイテクアナリシスと実施している「LM1010」の精度や運用などを検討する多施設共同研究に参加。2024年7月から2025年5月までの10か月、「LM1010」を用いた臨床研究に取り組んだ。それ以前に自施設測定は行われていなかった。
熊本大学との共同研究は、緒方氏が熊本大学病院薬剤部の尾田一貴氏(現:准教授 兼 副薬剤部長)に自施設のTDMの現状を相談したことを契機に開始された。
同研究は「LM1010」の精度や運用などを検討することを目的とし、「LM1010」による測定値と外部委託の測定値との相関を調べた。対象薬剤をバンコマイシン(VCM)とボリコナゾール(VRCZ)とし「LM1010」での測定値は参考値として利用し、臨床応用しないこととした。
具体的には社会保険大牟田天領病院の薬剤師が通常業務を優先した上で「LM1010」による自施設測定を行い、外部委託の測定値および測定値を得るのに要する時間を比較した。
TDMは治療効果を監視しながら患者に最適な薬物投与を行う個別化医療で、血中薬物濃度を測定するという行為が必ず発生する。
自施設測定を行わない場合、外部委託のためタイムラグが生じてしまう。そのため処方介入がより難しいものになってしまうと考えている。令和4年の一般社団法人日本病院薬剤師会の調査では、68%の施設でTDMが実施されているが、64%が血中濃度測定を外部委託し、それにより導き出される自施設測定の割合は36%と多くないと推察される。
同院では外部委託企業に検体を提出するのは休日を除く月曜~金曜日の15時である。その後外部委託企業で測定がなされ、FAXで同院薬剤部に速報レポートが配信され、電子カルテに反映されるのはFAX配信の次の日になる。
今回臨床研究で自施設測定の対象としたVCMとVRCZについては、VCMは月曜日から金曜日に提出した検体について翌日の7時から9時の間に速報がFAX配信される。VRCZは月曜日から木曜日に提出した検体は2日後の18時から20時の間に、金曜日に提出した検体は翌週の火曜日の同時刻に速報がFAX配信される。
課題となっていたのは金曜日に提出する検体で、例えばVCMの場合、外部委託企業からのFAX配信は土曜日になる。土曜日に主治医が休日で不在な場合は、これまで遠隔で結果を主治医に報告して対応するなど業務が煩雑になっていた。そのため推奨される測定タイミングよりも遅い月曜日に採血されることもあった。VRCZの場合は、金曜採血の場合、結果報告時間が大幅に遅くなることが問題となっていた。
VCMとVRCZの測定のガイドラインで推奨されている血中薬物濃度測定のタイミングは、VCMの場合、重症/複雑性感染例は定常状態前の3回目の投与の前(トラフ値、ピーク値)、VRCZの場合、3から5日目が推奨。重症真菌感染症の場合は3日目が推奨されている。
外部委託した場合、正しいタイミングで採血を行ったとしても結果が得られるまでにタイムラグが往々にして生じる。緒方氏はそういった中で、自施設測定できる施設の差を感じ、いつか自施設測定をやってみたいという思いが強くなっていたという。
同臨床研究で「LM1010」の操作を担当したのは緒方氏と薬剤師5年目の職員の2名だった。緒方氏は大学在籍時にHPLCを使用した経験があったが、もう1名の薬剤師にはHPLCの操作経験が無かった。緒方氏自身は熊本市で開催された医療薬学フォーラム(2024年7月開催)のハンズオンセミナー(株式会社日立ハイテク、株式会社日立ハイテクアナリシス共催)で操作を覚え、その2日後には「LM1010」が同院に設置され測定が開始されたが、両者共に簡単に操作を行うことができたという。「LM1010」の占有面積は机1つに収まる程度で設置場所に困ることはなかった。
高速液体クロマトグラフ(HPLC)を操作した経験がある人は移動相や標準液の調製、検出波長の設定など複雑な操作を思い浮かべるかもしれない。「LM1010」では移動相や標準試薬に関しては完全にセット化され、検出波長も最適な条件が薬剤毎に設定されているため、簡便な操作で分析を行うことができる。性能確認も自動化され、測定前に必要な前処理は薬剤間でほぼ共通した分析フローになっているため薬剤間で取り違えることがほとんどなく、結果も安定しているという。
オートサンプラーには最大10検体までセット可能で、同院で測定する必要があった検体は1日あたり最大で6検体であったため、1台で測定を処理することができた。
VCMでは分解産物に注意が必要な場合があり、同院の症例でもクロマトグラムに分解産物のピークを確認した。ピークを拡大すると2.5分のピークの少し手前2.38分にもう1つ小さいピークが確認されたが、これは赤嶺氏らの報告(赤嶺由美子、LM1010高速液体クロマトグラフィ法と化学発光免疫測定法によるVCM血中濃度測定値の比較。医療薬学51(4)187-195(2025)秋田大学医学部附属病院薬剤部)による2.38分で出現するピークと考えられ、今回の臨床研究でも分離を確認することができた。
臨床研究では、外部委託に提出後の残余検体を院内測定用に500 μL分注し、「LM1010」で血中濃度を測定した。測定結果は参考値として電子カルテの記事に記載した。
測定に関わる作業時刻は、当初は操作に慣れるために時間の余裕がある勤務時間外の測定を想定していたが、測定を開始してから比較的すぐに約30分で操作を完了できたため、通常業務が落ち着いている昼休みの前後の各30分にスケジュールとして組み込むことができた。
事前に電源を入れて光源を安定させておけば、例えば13時に測定作業を開始すると、QC測定と並行して前処理を行うことで拘束時間は30分程度で、おおよそ2時過ぎには結果を入手できた。結果は参考値として、病棟担当薬剤師と主治医に報告した。
VCMが投与されたのは31症例で71検体を比較に用いた。外部委託(ラテックス凝集比濁法)との相関は、回帰曲線の傾きは0.9792と1に近い値を示し、相関係数(r)も0.981と良好な数値を示した。次いで「LM1010」と外部委託とで系統誤差が生じるかを調べるためBland-Altman分析を行ったが相対誤差の平均は-2.28%と外部委託測定値がわずかに高い傾向を示した。さらに平均値に±1.96の標準偏差を加えた数値をLimits of agreementとして設定したが、これを外れるのは4点に抑えることができた。
VRCZが投与されたのは7症例で21検体を比較に用いた。外部測定(LC-MS/MS)との相関は、回帰曲線の傾きは0.9397、相関係数が0.995と良好な数値を示した。Bland-Altman分析でも相対誤差の平均は-0.1%と、全体ではほぼどちらにも偏っていないとみられた。低濃度域で若干「LM1010」が高い傾向、高濃度域では外部委託の方が高い傾向を示した。
VCMについて「LM1010」の採血から報告までの最短時間は1.6時間、最大時間は55.2時間、平均が6時間だった。それに対し、外部委託の最短時間は16.4時間、最大時間は69.9時間、平均値が22.5時間だった。採血日内に測定できなかったことが3件あったが、原因は休日の採血等の回避不可能な理由によるものだった。
1日2回投与されていた場合には14時台に報告することができたため、業務に負担無く、採血日の2回目投与まで(朝投与して夕方の投与まで)に新たな投与設計案を提案するのは容易だったという。
TDMの結果、増量17件、減量もしくは休薬・中止22件、高値により他剤への変更1件であり、これらが全体の56%だったため、この56%に自施設測定できればメリットがあったことになる。
またVRCZについて「LM1010」の最短時間は1.4時間、最大時間が9.3時間、平均が4.9時間だった。外部委託の最短時間は55.4時間、最大時間は105.2時間、平均が61.2時間という結果だった。VRCZについては全て採血日内に結果報告が可能だった。
外部委託では少なくとも2日以上は時間を要しており、さらには結果の配信は18時以降だったため、実際の処方変更は3 日後以降であった。
緒方氏が臨床研究を通して自施設測定を臨床応用したかった症例は、アスペルギルス膿胸に胸腔ドレナージと併用でVRCZ注を開始した80歳台女性の症例だったという。
同症例には初日に1回200 mg、1日2回で開始し、維持量は(1日目以降)1回160 mg 1日2回だった。顧みれば維持量が少し多かったことを反省しているが、自施設測定で4日目の採血結果として7.014 μg/mLを得ていたが投与量変更には外部委託の結果を待つ必要があった。実際、採血が金曜日であったため外部委託のFAX配信は翌週の火曜日夕方19時となった。外部委託との数値の相違は無く、結果的に8~10日目は休薬した。
同症例ではオペは行われたが、その後にVRCZを維持投与する必要があり、11日目から1日1回150 mg投与を提案し、念のため10日目に採血を提案し自施設測定を行ったところ、3.45 μg/mLと参考値ではあるが下がっているのを確認し、自信を持って11日目から新しい投与量を実施することができた。
幸い同症例では肝障害などの有害事象は確認されなかったが「LM1010」の結果が反映できれば有害事象が懸念されるような血中濃度レベルを早期に是正することができ、安全性が確実にあがっていた。
同院で実施した「LM1010」を用いたVCMとVRCZの血中濃度の測定は外部委託と良好な相関を確認することができた。ケアミックス型の中小病院の薬剤部において、通常の業務を優先しながら行った「LM1010」の操作は業務に支障を来すことなく当日に結果を報告することが可能だった。
また「LM1010」の操作方法は短時間で習得することができ、特別なスキルは必要としなかった。
得られた測定値は参考値であったものの、主治医に結果を繰り返し報告していくうちに、主治医からも結果を聞かれることが増え信頼が得られていることを実感できたという。また病棟担当薬剤師からは、測定値を投与量の変更等の事前シミュレーションに用いたためスムーズな投与量変更に繋がり好評だったという。
緒方氏は「中小病院においてもLM1010のオペレーションは十分可能であり、採血結果を早期に臨床へ反映できる分、安全性と有効性の向上につながるものと考えております」と述べた。
演題 2
中川 潤一 氏 弘前大学医学部附属病院 薬剤部・臨床研究推進センター
国立大学法人弘前大学医学部附属病院(青森県弘前市)は同県内で唯一の特定機能病院および高度救命救急センターに指定され地域医療の中核を担っている。
2023年度から「LM1010」を導入し自施設測定を開始し、これまで順次測定項目を増やしてきた。現在は薬剤部と検査部で血中濃度測定を行っている。具体的には中川氏が所属する薬剤部では「LM1010」でボリコナゾール(VRCZ)、クロザピン(CZP)、アミオダロン、ミコフェノール酸、UPLC-MSMS法でエベロリムスの測定を担当。検査部では免疫学的測定法でバンコマイシンやタクロリムスの測定を担当している。
薬剤師数34名、技術補佐員11名が在籍しており、主に「LM1010」の操作等の業務は技術補佐員が行い、測定結果の妥当性を薬剤師がチェックしている。技術補佐員が欠席した際は薬剤師が操作等の業務を担当する。各職員の業務の優先順位が決められており、それに従い業務が行われている。「LM1010」の操作に関しては中川氏と技術補佐員1名で担当している。
同院薬剤部での血中濃度測定は、基本的に検査部門システムで運用している。電子カルテの検査オーダー画面に薬剤部の項目が作成され、主治医のチェックで外来や病棟に採血管ラベルが発行される。
検体はまず検査部に提出され、薬剤師は検査部用のパソコンで検体提出の状況とそれぞれの薬剤の種類等を確認しながら検体を回収。採血前日の夕方に薬剤部の担当者間で優先順位を決定している。
血中濃度測定は「LM1010」、およびエベロリムスのみUPLC-MSMS法で測定している。
結果の妥当性が評価されれば、採血管のラベルを読み取り、検査部門システムの患者情報を呼び出し、結果を手入力する。手入力では記入ミスが生じる可能性があるため、別の薬剤師によるダブルチェックが行われる。
中川氏は測定結果の妥当性の評価を担当しているが、重視すべきこととして、クロマトグラムの形状の確認と前回値との比較をあげ、事例1~3を紹介した。
事例1:VRCZのピークの後ろに妨害ピークが生じた症例で、この場合はクロマトグラムを確認し、ピークが垂直分割されていれば自動計算で得られた面積で判断しても問題ないが、そうでない場合はピーク高さを用いて再計算の必要がある。
事例2:アミオダロン/デスエチルアミオダロン(代謝物濃度)の急低下がみられた症例で、前回値0.94/0.96 μg/mLが0.35/0.45 μg/mLと変化した。アミオダロンは一般的に急激な低下はみられない薬剤のため、カルテ調査では患者側の要因は不明だったため、再測定を行った。その結果、再測定では前回値と大きく差は無い結果が得られ、検体の前処理液の選択ミス等の測定業務上のミスが原因と考えられた。
事例3:エベロリムスの血中濃度が前回値から3倍以上上昇した症例で、投与量に変化が無いにもかかわらず生じた。カルテ調査の結果、他院の皮膚科でホスラブコナゾール錠が処方されていたことがわかった。
血中濃度検査はただ結果を出せばいいというわけではなく精度を担保するという考え方が非常に重要になる。
同院で行っている精度管理としては、法令に基づく帳簿の記録や管理をあげ、「LM1010」については1点検量線を採用しているため標準液のエリアに変動が無いかを測定日に毎回確認すると共に、学会での報告を見込んで測定値と肝機能検査、腎機能検査など様々な結果との相関関係や併用薬の影響などを確認している。また使用する機器の保守点検は欠かすことができない。
客観的な精度管理としては「外部精度管理調査」の受検がある。外部精度管理調査は現在のところ努力義務だが、一般社団法人TDM品質管理機構の「TDMコントロールサーベイ」を受検することで、検査施設間や検査方法間で生じる測定値の差異を抑制することができる。
「TDMコントロールサーベイ」では対象薬物を受検したいと申請すると、対象薬物の濃度が不明の検体が送付され、自施設で血中濃度検査を行いその結果を報告すると、結果の差異を知ることができる。自施設で測定すると値は正しいと考えがちだが、他施設の結果と比較することで自施設の置かれている状況を理解することができる。
同院では2022年度は全て外部委託であり、これら合計の測定件数は311件だった。2023年度から「LM1010」を導入し薬剤部での測定を開始した。自施設測定導入後の測定件数は年々増加し、2023年には492件、2024年には528件だった。今年度も半年間(2025年4~9月)で377件を達成し、さらなる増加が見込まれている。
自施設測定導入前後の測定件数の内訳を比較すると、ミコフェノール酸については統計学的に有意な変動は無かった。アミオダロンについては統計学的に有意な差は無かったが、自施設測定開始から増加傾向を示し、件数の増加にも薬剤部での測定で十分対応可能になっている。
一方でVRCZについては、自施設測定に移行して非常に増加したが、増加傾向はない。自施設測定に切り替えたタイミングの患者数が通常より多かったこともあったため、月別の測定件数を月別の処方人数で割る分析を行ったところ、統計学的変化は認められないものの件数/処方人数が2を超えるような、これまで外部委託期間で1度もなかったような月が散見された。
これをもとに、自施設測定の導入により何かしらのTDM業務の変化があった可能性を考え分析を継続した。
VRCZについて1人あたりの測定および投与量変更回数を、外部委託期間(2021年12月~2023年5月)と自施設測定期間(2023年7月~2025年1月)、それぞれの期間内に最初と最後の測定を行った患者、つまりそれぞれの期間内で血中濃度測定が完結した患者をピックアップし、1人あたりの測定回数や投与量の変更回数について分析を行った。その結果、1人当たりの測定回数は外部委託期間と比較して自施設測定を開始してから増加していることがわかった。
この増加について、血中濃度が目標濃度に到達するまでの採血が増えたのか、または到達した後の採血が増えたのかを検証したところ、一度の到達確認後にも採血が増えていることが明らかになった。つまり1回目標の血中濃度に到達したため満足してその投与量を漫然と継続するのではなく、継続的に血中濃度測定を行うようになったという変化が認められた。
さらにVRCZの投与量の変更回数にも変化があった。外部委託期間の投与量の変更は中央値が0回であったのに対し、自施設測定期間の中央値は2回に増加。自施設測定で測定回数が増加することが、投与量の変更に反映されていることが確認された。
CZPについては自施設測定を開始したことで最も顕著な変化がみられた。
外部委託期間における処方は約20名/月にもかかわらず測定件数は0件/月だったが、自施設測定開始後の測定件数は毎月増加を継続し、現在は15件/月程度を測定している。処方件数も緩やかな増加が続いているが測定件数の増加傾向の方が遙かに高い伸びをみせている。
そこでCZPの測定が患者にメリットとなったかを検証した。
検体数199件中、350 ng/mLより低濃度は39件、1000 ng/mL以上の高値であった10件で25%程度の検体は目標血中濃度域を外れていることがわかった。これを患者数27名で評価すると350 ng/mLより低濃度を経験したのが11名で41%、1000 ng/mLより以上の高値を経験したのが10名で37%だった。両方を経験した患者もいたため、350 ng/mL以下もしくは1000 ng/mL以上のいずれかを経験した患者を算出すると、59%の患者が目標血中濃度域を外れていたことが明らかになった。
中川氏は、血中濃度で全ての患者のアウトカムを評価できるわけではないものの、血中濃度を測定することで各患者の投与量の妥当性をチェックする機会が得られると捉えているという。
同院では「LM1010」によるVRCZの血中濃度測定をその代謝物であるN-oxideの測定に利用している。
「LM1010」はVRCZ測定に最適化したメソッドを採用しているため、本来N-oxideの測定は行うことができないが、患者検体を分析することでVRCZのピークの前のリテンションタイム1.1分程度でN-oxideのピークが必ず現れることを明らかにした。
VRCZはCYP2C19によってN-oxideに代謝されるため、同多型を有すると薬物動態が大きく変動し、また炎症反応によって同一個体内でも大きく薬物動態が変動することが知られている。そのためVRCZとN-oxideの両者を計測している施設も多い。
一方でこのN-oxideのピークは検体中の夾雑物と重なってしまう。そこで定量はできないが、多少無理をしてベースラインを引き、ピークの高さを算出したうえでVRCZとN-oxideのピークの高さ比で濃度比が予測できないかを検討した。
その結果、同院で研究用に使用しているUPLC-MSMSによる測定結果と「LM1010」による測定結果の濃度比は非常に良好な相関があることがわかった。例えばN-oxideのピークがVRCZのピークより著しく小さい場合、PM(poor metabolizer)もしくは炎症が高いなどの理由を推定することができ、反対にVRCZが低くN-oxideのピークが著しく高ければ逆の可能性を推定することができ、その上でシミュレーションを検討することができる。
同院薬剤部による血中濃度測定件数は年々増加しているが、検査部門システムと「LM1010」の利用により測定業務の大部分は2名体制で運用ができているという。
中川氏は「日々の妥当性の評価や帳簿管理、内部精度管理、および年1回の外部精度管理を行うことで、単に測定を行うだけでなく測定の信頼性維持ということも意識しながら業務を行っております。ウチでの分離分析法による迅速な血中濃度測定を行うようになった結果、VRCZではより精密で継続的なTDMが行われるようになったという結果が得られました。CZPに関しては潜在的な新規のTDMニーズの開拓に貢献することができたのではないかと考えております」と述べた。
対 談
メディカルセミナー終了後、松尾氏を進行役に緒方氏、中川氏による対談が行われた。まず松尾氏は緒方氏に、約1年間「LM1010」を初めて使用した印象を質問した。

松尾氏

緒方氏

中川氏
緒方氏は、自身は大学院でマニュアルインジェクションのHPLCを多用しメソッド開発にも取り組んでいたが、「LM1010」では既にプログラム化され、セミナーでも述べた通り2日前に触ってすぐ院内測定することができたことにとても驚き、またHPLCの進化を感じたと述べた。
大牟田市は高齢者が多く、特にケアミックス型の社会保険大牟田天領病院には超高齢者、つまり体重が低く腎機能の予測が難しい患者へのVCMを投与は予測困難な症例が多く、その日のうちに血中濃度測定の結果が得られることはメリットが大きい実感があるという。特に高齢者は少しのことで腎機能が乱れるため、自施設測定ができなければVCMの投与自体に迷いが生じるという。
続いて松尾氏は中川氏に、弘前大学病院薬剤部での装置の使い分けを質問した。
中川氏は、エベロリムスについてはLC-MS/MSでしか測定できないためLC-MS/MSを使用しているが、他にも理由があり、LC-MS/MSは大学内の他の研究でも使用があり専有できないことや、参考値として用いるのに6点検量などを採用しているため測定に時間を要し実臨床での使用には向いていないと感じているという。一方で「LM1010」では迅速な測定が可能で、外来患者にもある程度対応できるところが良いと感じ、「LM1010」で測れる薬剤は基本的に「LM1010」で測定するような考えで使い分けを行っているという。
特に外来患者は来院時中に測定結果と投与量変更ができなければ、場合によっては次回来院する最短で1週間程度後まで適切でない投与量が継続する可能性が生じてしまう。
緒方氏も、外来患者にはなるべく早く測定して次の投与設計に繋げたいため、患者の時間的なメリットは大きいと考えているという。
また中川氏は、特に「LM1010」を用いたVRCZの測定については、1人1人にきめ細やかに血中濃度測定が行われるようになったことで、シミュレーションソフトを用いても予想を外すことも多かったVRCZについて測定結果を即時に反映させることができているという。またCZPについても同様に即時の投与量変更ができ、場合によっては服薬アドヒアランスの問題に気づく契機になることもあり、休薬を医師や担当の薬剤師が考える上で非常に有意義な情報になっていると思っているという。てんかん発作が起きてしまった症例では、減薬することでその後の発作を防ぐことができたと考えられる事例もあった。
松尾氏は「LM1010」導入が実現した経緯を尋ねた。
中川氏は、弘前大学医学部附属病院で「LM1010」導入を病院長に交渉したのは薬剤部長の新岡丈典氏で、その経緯を聞いたところ、測定自体は赤字にはなるものの、自施設測定によって入院期間の延長や医療機器のコストが抑制・削減できること、そして患者のアウトカムへの影響に理解が得られた結果であったという。また導入されてからは病院全体の理解が進んだとみられ、測定項目が増えていったという。
緒方氏は、コストの面では難しさがあるものの今回の臨床研究を論文にまとめる予定があり、また大学との繋がりができたことについて向山政志病院長に好意的に捉えてもらえているという。TDMは薬剤師が活躍すべきところであるため、中小病院でも様々なエビデンスを率先して出せるような機器だと期待しているという。
最後に松尾氏は、実際に異常値が出た際にどのように評価したかと尋ねた。
中川氏は、稀に隣にピークが出てしまうことがあり、やはりクロマトグラムの確認は怠るべきではなく、滅多には無いが使った前処理液のエラーも疑う必要があるという。薬剤師の強みは薬物動態が理解できることであるため、機器と薬学的知識との融合でより精度を高めることができるとの考えを示した。
緒方氏は、講演では言及しなかったものの自施設測定ができている施設とそうでない施設間で、クリティカルな症例ではアウトカムの違いは生じているはずで、その差を研究すること自体は困難だとは思うが、普及が進めば比較できる可能性に期待しているという。実際に臨床研究で「LM1010」を用いることで、すぐに採血の結果を反映できることの臨床的な意義を実感できたという。
登録記事数 203件
まだまだあります。