
技術力はあっても単独では海外展開が難しい。そんな中小モノづくり企業をサポートするのが「Smart Factory as a Service(SFaaS)」です。工場の土地や施設機材、人材、バックオフィスの機能まで提供し、IoT技術によって品質も担保するシェア工場は、すべてのステークホルダーが抱える課題を解決し、新しいエコシステムを作る切り札として注目されています。
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ユーザーボイス Vol. 01
IoTサービスポータル「ExTOPE」
ExTOPEの導入によって、研究グループの情報共有が非常にスムーズになりました
宮崎大学医学部解剖学講座
超微形態科学分野
教授
澤口 朗 様 博士(医学)
血小板をiPS細胞から量産するプロジェクトに参画
研究の目的は、病気でつらく苦しい思いをしている方たちを助けることにあります。なかでも近年力を注いでいるテーマが、iPS細胞から血小板を生産する共同研究です。
血小板には、血管が損傷したときに集まり、出血を止めるという重要な役割があります。血液製剤の主成分でもあり、特に手術では大量に必要とされます。現状、血小板の供給は献血が頼りですが、血小板は冷凍保存ができず、採血後わずか4日程度しか有効期間がありません。また、献血ドナーの数は少子高齢化などもあり減少しています。
こうした背景から、血小板を大量に生産する研究には大きな期待が寄せられており、臨床応用に向けた量産化をめざして研究が進んでいます。
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)、株式会社メガカリオン、宮崎大学の3者が参画しているこのプロジェクトにおいて、私たちは作製された血小板の構造を検証し出来栄えを評価する役割を担っています。
クラウド活用で、評価・解析業務が大幅に効率アップ
iPS細胞から作られた血小板の安全性を評価して、患者さんに届けるためには、人間の血小板と人工の血小板とが、同じ構造で、同じはたらきがあることを保証する必要があります。
例えば、血小板の中にはさまざまな分泌顆粒や開放小管系という構造があります。こうした構造がiPS細胞由来の血小板にもあることを確認してはじめて、実際に病気の治療や輸血に利用できるわけです。血小板の内部構造を詳細に観察できる透過電子顕微鏡(TEM)の画像は評価の重要な要素ですが、試料の画像を研究グループ内で共有し、その評価を検討するといった基本的なやりとりにさえ、これまでは大きな制約がありました。
共同研究グループ内でのやりとりは、従来eメールが主だったからです。
血小板の製造過程のデータはすべてeメールで送られ、こちらは受け取ったメールの内容を別フォルダで管理。また、郵送された血小板の実物をTEMで解析し、撮影した画像をフォルダに収め、結果を報告する際にはそのフォルダから、いくつか画像を選択し、eメールに添付して送っていました。電子顕微鏡の解像度が上がるにつれ、画像の容量も増え、eメールを数回に分けて送ったり、ときには画質を落としたりすることもありました。評価のコメントについても以前はeメールに書き込んだり、別のファイルに画像を貼付してコメントを書き入れたり、という二度手間三度手間が普通になっていました。
しかし、ExTOPEを本格運用してからは、そのやり取りが一変しました。製造過程のデータも、当研究室で撮影・解析した高画質のデータも、クラウドで一括共有でき、検索も容易になって、解析、評価の一連の業務は大幅に効率アップしました。
また、この度 iPS細胞研究に関する最大規模の電子顕微鏡画像データベースをExTOPE上に構築させていただき、プロジェクト参画各組織の方々にて活用が始まります。
情報を共有し、PDCAサイクルを加速する環境が実現
ExTOPEのさまざまな機能の中で目を引くのが、画像を保存・保管するフォルダに、重要度に合わせて色を設定できる機能です。フォルダの階層もユーザがカスタマイズしやすく、データの仕分けは格段に簡便になりました。例えば、良い評価の画像は赤のフォルダに入れ、低い評価の画像はグレーのフォルダといったように、色で分別でき、直感的に画像を検索できます。最新バージョンではフォルダの仕分けがより容易になり、フォルダに添付できるファイルとその種類も拡張されました。
最新バージョンには、2つの画像を並べて比較するという機能も盛り込まれています。「今回の血小板はこれまでで一番出来がよかった」と評価しても、どの部分が良かったのかを理解するには、画像を比較して考察することが欠かせません。
チャット機能もとても便利な機能です。画像を見ながら「今回は構造が良く高評価です」「ポイントはどこでしょうか」「分泌顆粒の濃さ、開放小管系の開放度、輪郭です」「画像の評価と生化学的な評価が一致したので、次の開発に生かします」といったリアルタイムの対話ができます。再生医療研究は、海外の共同研究者を含むプロジェクトも多く、複数の拠点から参加できるチャット機能は利用価値が高いと思います。
常時装置の状態をモニタリングする機能もネットワークによる強みと言えるでしょう。人員削減を余儀なくされている大学界において、電子顕微鏡をメンテナンスする技官が不在になれば、事実上運用はできません。しかし、常時モニタリングされていれば、何かトラブルが起きたときも、迅速に対応してもらえ、装置を更新・導入できるという安心感があります。
今後、ExTOPEが多くの研究機関に普及していけば、再生医療開発のPDCAサイクルは格段に早まるでしょう。
次世代の研究者育成にも力を発揮すると期待
iPS細胞由来の組織や臓器は、血小板だけでなく、網膜や心筋シートをはじめ、臨床への応用段階を迎えているものが多数あります。そのため今後は、作製された組織や臓器の微細構造を検証する過程に大きなニーズが生まれるでしょう。その際、懸念されるのは、電子顕微鏡の操作に長け、評価できる知識を持った研究者の不足です。
私の研究室はTEMと走査電子顕微鏡(SEM)に加え、操作が容易なLV-SEMを備え、ステップを踏んで技術を習得することに力を入れています。以前に比べれば飛躍的に簡易になったとはいえTEMの試料作製には一定の技術が求められます。また、それ以上に画像の解析・評価には高度な知識と経験が必要です。
その点ExTOPEのようにネットワークでつながるシステムは、TEMによる画像解析のスキルを育てる有力なツールになると感じています。
ExTOPEには、画像自体にコメントを付すことができる機能もあります。「この画像の分泌顆粒がこれまでで一番美しい」という経験豊富な研究者のコメントを、画像と同時に閲覧できる環境は、若い研究者の成長に大きく貢献するはずです。これを紙媒体で行おうとしても、画像の数も、配信のスピードも、クラウドのそれに遠く及ばないことは明白です。
患者さんのQOL向上をめざして
血小板が慢性的に不足する疾患があると、ケガをしても止血できないばかりか、ケガをしなくても血が出たり、ぶつけてもいないのに痣ができたりします。怖くて外出も控えてしまうといった患者さんもあるでしょう。
iPS細胞由来による血小板の作製は、こうした状況を改善する有力な手段ですが、その成否の鍵を握るのは、安価に、大量に生産する技術であり、生産された大量の血小板を迅速に評価する仕組みです。
ExTOPEによる画像やデータの共有は、電子顕微鏡解析のスキルをもったスペシャリストを一人でも多く養成するため、そして、患者さんが安心して暮らせる日のための大きな武器となると確信しています。
高画質画像も一括共有
画像にコメントを付加
共同研究に欠かせないチャット機能
ユーザーボイス Vol. 02
シェアリング型スマートファクトリー「Smart Factory as a Service」
Amata Nakorn Industrial Estate
技術力はあっても単独では海外展開が難しい。そんな中小モノづくり企業をサポートするのが「Smart Factory as a Service(SFaaS)」です。工場の土地や施設機材、人材、バックオフィスの機能まで提供し、IoT技術によって品質も担保するシェア工場は、すべてのステークホルダーが抱える課題を解決し、新しいエコシステムを作る切り札として注目されています。
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[事業責任者]
株式会社 日立ハイテクノロジーズ
高橋 伸彰
中小規模のモノづくり企業様は、元請となる大手メーカーが製造工場を海外に移すことで、事業の機会を失うことも珍しくありません。しかし、技術力はあっても、投資の負担や不慣れなオペレーションなどの障壁が大きく、海外進出を躊躇されることが多かったと思います。そのハードルを何とかクリアすることができないかと考え、「スマートファクトリーアズアサービス Smart Factory as a Service(SFaaS)」という、モノづくり自体をサービス化する事業を企画しました。SFaaSでは、当社が培ってきたノウハウ―例えばモノづくりや品質を維持するためのIoT技術、物流や販売、バックオフィスの機能などを駆使してさまざまなリスクを軽減し、企業の悩みをトータルに解決することができます。また、結果として海外進出を手軽にするだけではなく、最新のIoT環境がもたらす効果を実感していただけます。いわゆる日本的な職人芸はマニュアル化しづらい部分でしたが、SFaaSでは製造プロセスのデータをすべて蓄積することによって、あらゆる国や地域でその品質を再現することも可能です。SFaaSというプラットフォームは、すべてのステークホルダーの課題を解決し、新しいエコシステムを作る切り札になると思っています。
[合弁企業]
Hitachi High-Tech Amata Smart Services Co., Ltd.
社長
菊地 重昭
海外でモノづくりを行うにあたって最も重要視されるのは「品質をどう担保するのか」だと思います。特に優秀な技術者が持つ熟練の技術を移転することは非常に困難な課題でした。私たちは、その課題を解消するために、モノづくり企業の製造プロセスをすべて洗い出すことからはじめました。そして、その結果を工程ごとにデジタル手順書に落としこみ、さらに品質管理のポイントを「見える化」して判断する技術を確立しました。しかし最後は人間の作業ですから、ミスの可能性はゼロではありません。そこで、工場内に複数のカメラを取り付け、作業と動線をすべて録画するようにしました。結果、万一トラブルが発生しても、いつ、なぜ起きたかの原因を特定でき、改善に活かすことができます。IT、IoTに対して苦手意識をお持ちの方は多いと思いますが、ますます深刻になる人手不足を補うためには、やはり自動化や知能化が欠かせません。今後ITやIoTが本当に必要になるのは、むしろ中小企業だとも言えるでしょう。巨額な投資なしに、最先端のIT、IoTを導入できるシェア工場のメリットは大きく、ぜひこれを東南アジアだけでなく、世界に広めたいと思っています。言葉の壁については自動の技術翻訳システムを開発し、自由にコミュニケーションをとれるように準備中です。私たちが持つモノづくりの経験と、ITを活用した製造現場の豊富なノウハウを最大限投入したスマートファクトリーは、自信を持って皆様にお勧めできると考えています。
[メーカー]
Siam-Hitachi Elevator Co.,Ltd.
President
大石 達郎 様
当社は、タイの国内マーケットをはじめアジア・中東向け昇降機の製造を行っています。これまでキーになる部品は日本や中国から調達していたのですが、輸送のリードタイムを考慮し、不測の事態に備えて在庫を持つ必要があるなど、コスト面や納期の面で様々な課題がありました。タイの国内で調達できることがベストですが、日本の協力工場さんが単独で海外に進出する困難さもよく理解できます。そうした中、彼らが持つ豊富なノウハウや品質を作り込む技術力を、IoTを使って遠隔で再現するというモノづくりの手法は、次の時代を見据えたあり方だと思っています。昇降機のようにビルの環境や寸法、意匠性などによって変わる、量産が難しい部品をどうやってIoT の技術を使って実現するのかは、今後の課題だと思っています。いずれにしてもなかなか調達が難しい部品を、現地で購入できる仕組みは、競争力あるモノづくりをめざす上で、非常にありがたいことですね。
[出資会社]
AMATA CORPORATION PCL
Chief Investment Officer
Ms. Lena Ng
タイ政府は「タイランド4.0」という政策のもと、タイに拠点を置くグローバル企業を支援しています。そうした中、当社も日立ハイテクノロジーズと合弁会社を設立し、緊密な連携によってユニークなスマートファクトリーを立ち上げました。日立ハイテクノロジーズのチームは、オペレーションプロセスやバリューチェーンの基礎を、サプライチェーン管理という観点からも理解し、IoTを最大限に活用しています。そこが大きな差別化のポイントだと思います。私たちも、日本の中小企業の国際的な活躍を心から望んでおり、日本とタイとの力強い関係が、私たちと日立ハイテクノロジーズのIoTテクノロジーとともに発展していくことを確信しています。
[サプライヤー]
泰榮電器株式会社
社長
河原井 廣和 様
SFaaSのお話をいただいて、早々に手を挙げました。タイにモノづくり拠点を置いて、メイドインジャパンを指導したいという思いがあり、現地の人材を育てながら、受注を拡大して、現地企業の活性化にも役立ちたいと思っています。中小企業は海外に出たいけれども自力では難しいというところがほとんどだと思いますが、今回機会を得て、日立ハイテクノロジーズさんの新しい事業に参画できたことに感謝しています。これをきっかけにIoT技術も前向きに取り入れ、お客さまから喜ばれる製品を作って、この事業を世界的に大成功させたいと思っています。
[サプライヤー]
泰榮電器株式会社
顧問
村谷 信之 様
日本の製造業はいずれも、長年培ってきた技術があり、近年はグローバル化に挑戦したいと考えていたはずです。その思いを、リスクの少ない形でかなえられるということで、今回はとても良い機会をいただきました。これは私たちの仲間に限らず、技術力を生かして海外に打って出たいという日本の中小企業全体にとってもチャンスだと思っています。現場で鍛えられた品質力を発揮するために、IoTを活用して現場のデータを蓄え、それをAIに切り替えていくという試みは、後継者問題や人手不足に悩んでいる中小企業の未来像でもあると思います。IoT活用の参考事例になることは間違いありませんし、それをタイ政府がバックアップしてくださっているという恵まれた状況にあるので、win-winのビジネスが展開できると思っています。
[サプライヤー]
東邦殖産工業株式会社
社長
皆川 康博 様
大手メーカーが生産拠点を海外に移すケースが多くなって、我々としても海外進出を意識し始めていました。しかし、人材や資金、現地の商慣習への対応などの問題を解決できず、方法を模索していました。そうしたところ協力会社間での勉強会でSFaaSのプロジェクトについてご説明いただき、面白い取り組みだと思ったことが参加を決めたきっかけです。海外での製造プロセスはもちろん、受注から納品までの一貫したフォロー体制や、IoTを使って品質を管理する先進的なシステムが利用できることも大きな魅力でした。今後は国内の工場との連携を図り、SFaaSの製品を日本でユニット化する、またはその逆もあり、付加価値を高めていくという可能性を考えています。中小企業でも海外拠点を活用できることがありがたく、日本のモノづくりの一つの解決策になると期待しています。
[プロジェクトリーダー]
株式会社 日立ハイテクノロジーズ
富永 誠
海外に進出している大手メーカーは、できれば気心の知れた日本のサプライヤーと現地でやり取りしたいと望んでいますが、中小モノづくり企業が単独で海外進出するにはハードルが高く、リスクも大きい。そこで海外にプラットフォームを設け、オペレーションもシェアするという複合型のモデルを考えました。すでに一部ではIoTの技術を使ったデータ収集やリモートコントロールは行われています。しかし、すべてをクラウドで管理し、世界中どこからでもアクセスでき、コントロールするというモデルは今までありませんでした。ジェトロからも援助をいただき、事業として立ち上げたところです。日本の中小モノづくり企業の技術力、匠の伝承をデータ化していくことで、海外においては品質レベルを上げ、国内のマザー工場ではIoTを活用したスマートファクトリーで集めた情報をフィードバックすることで、全体の競争力を高めることができると期待しています。日立ハイテクノロジーズが持つ、さまざまな技術リソースや営業面でのノウハウなどを、中小モノづくり企業に活用していただくためにも、今後シェア工場の皆様と強固なパートナーシップを築き、ともに海外モノづくり事業を推進していきたいと思っています。
[出資会社]
Visiting Srithai Engineering Products Co., Ltd.
President
Mr. Decha
SFaaSプロジェクトに参画したのは、かねてから日本のモノづくりと品質管理に関心を持っていたためです。私たちは自分たちの生産管理方式の現状に満足はしていません。プロジェクトを通してスマートファクトリーの仕組みを学び、より優れた生産管理方式へ改善できると期待しています。すでにIoTの活用によって、以前よりはるかに効率的に生産と品質を管理できることが分かってきました。現地を視察し、その実用的なシステムと完成度の高さを実感し、感動を覚えました。現在、IoTは工業分野において世界的に重要なものになっています。タイの製造業も将来的にはこのような仕組みを活用して、生産管理をする必要があると思っています。
独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)
主幹
岡部 光利 様
この度は、タイでの操業開始、おめでとうございます。本プロジェクトは、わが国の中小モノづくり企業の海外展開を助けるだけではなく、IoT技術を通じて、タイ政府が推進するタイランド4.0にも貢献するという点で、まさに日本とタイ双方にとって win-win となる事業です。特に、従来のような「モノ」だけではなくて、工場をシェアすることによって、海外進出のコスト削減やさまざまな課題を解決する「コト」のビジネスであることが、非常に時機をとらえた試みだと受け止めています。今回のタイでのプロジェクトが、一つのモデルケースとなって、日本・ASEAN各国に展開され、日本ASEANのさらなる連携促進につながることを期待しています。
お問い合わせ
産業ソリューション事業統括本部 事業戦略本部 事業開発部(担当:耳野 (03)3504 5342)