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High School+

鹿児島県立錦江湾高等学校鹿児島県立錦江湾高等学校

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日本各地で科学を学ぶ高校生たちを訪ねる本コンテンツ。第6回は鹿児島県立錦江湾高校を訪問。仲間と楽しく課題研究に取り組む高校生のみなさんにお話を伺いました!

錦江湾高校は、剣道やバレーなどの部活動や、文化祭・体育祭などの学校行事が盛んな県立高校です。文武両道を掲げており、文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)*の指定を15年間受けています。仲間と楽しく、主体的に課題研究に取り組むことを大切にしており、化学研究部、生物研究部の生徒さんを中心に研究活動を行っています。

*スーパーサイエンスハイスクール(SSH):国際的な科学技術系の人材を育成するため、文部科学省が指定し、支援する、先進的な理数教育を実施する高等学校。

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鹿児島市の平川駅から「錦坂」と呼ばれる坂を上ると、錦江湾高校があります。高台に建つ校舎から一望できる、錦江湾と桜島の眺めはまさに絶景です。豊かな自然環境の中で、生徒さんたちはどんなことを学んでいるのでしょうか。まずは、学校の近くの平川動物公園に、アマミノクロウサギの観察に行くという生徒さんに合流させてもらうことになりました。

2年生前畠さん
2年生福山さん
2年生鶴野さん
2年生塚田さん
2年生東郷さん

向かったのは園内の動物病院です。平川動物公園は県内希少種や絶滅危惧種を施設で保護しており、その一貫として徳之島で怪我をしていたアマミノクロウサギを保護しています。

アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島のみに生息し、特に希少な生き物として特別天然記念物に指定されています。100万年前に本土から分断されたという離島で、原始的な姿を色濃く残しながら独自の進化を遂げたアマミノクロウサギは、ウサギなのに耳が短く、真っ黒な姿をしており、本土にいるノウサギとはかなり異なった姿形をしています。シイやカシの常緑広葉樹の原生林に住む、豊かな自然のシンボルです。

「地元鹿児島の絶滅危惧種を保護するために、高校生でもできることがあるのではと思いました」と、前畠さんは研究を始めた理由を語ります。アマミノクロウサギの生息数が減少したのは、ハブ対策として1970年代に輸入されたマングースや、野良犬・野良猫による捕食、観光客の増加による交通事故、森林伐採による生息域の縮小が原因と言われています。

しかし、調べていくと少し事情が変わってきていることが分かりました。「絶滅を危惧されていたアマミノクロウサギですが、近年は増加し始めていて、サトウキビなどの特産品の畑を荒らすなど被害が報告されているそうです。人間のせいで一時は絶滅の危機に追いやったのに、農作物に被害が出たら今度は害獣のように扱う…。なんだか身勝手だなと思って」と福山さん。そこで5人は研究テーマを「アマミノクロウサギの保護」から転向し、「人間との共存方法」を模索し始めました。

「今、島では、農作物をアマミノクロウサギから守るためにフェンスを作り始めているそうですが、それだと費用がかかります。だから、高校生の私たちでもできる簡単な方法がないかと探しています」と前畠さん。アマミノクロウサギが嫌がるものを見つけて、それを畑に散布することで、農作物の被害を抑えようと考えています。

  • 独自の進化を遂げたアマミノクロウサギ。子どもを地中で育てるために爪が発達しているそうです。

  • アマミノクロウサギに会える貴重な機会。
    つぶさに観察するとともに、ここぞとばかりに飼育員さんを質問攻めにします。

「出身は徳之島なのですが、島でアマミノクロウサギを見たことはありません。夜行性なので夜中に探すか、動物公園に行くしか会う方法がありません」と鶴野さん。ほとんど生態が明らかになっていないアマミノクロウサギ。でも、あきらめてはいません。動物公園にお願いして話を聞きに行ったり、図鑑を取り寄せたり、アマミノクロウサギについて研究をしている鹿児島大学の先生に何度も電話をしたり、自ら積極的に活動しています。「毒性が強い薬剤は絶対ダメだし、そもそも雨で流れてしまう」と塚田くんと東郷くん。研究は前途多難のようですが、自分たちが答えを見つけられなかったとしても、次の代に研究を引き継ぐことで、人間とアマミノクロウサギとの共生をめざしていきたいと長い目で成果を見据えています。

2年生野口くん
2年生重野くん
3年生石本くん
3年生木之下くん
3年生入鹿くん
2年生長田くん

次は男子6人組と校舎脇の側溝へ。しゃがみ込むと土を掘り起こし、ポイポイ小さな虫を捕獲していきます。

その虫の正体は「ヤンバルトサカヤスデ」。台湾からやって来た外来種で、1970年代に沖縄本島に侵入後、年々北上しているそうです。錦江湾周辺にも大量発生しており、よく見ると地面や校舎のあちこちにヤスデがいるではありませんか…。家の中にも侵入してくるそうで、住民は大変迷惑しているそうです。

「見ているだけで不快ですし、死骸は悪臭を発生します。住民の中には精神的に参ってしまっている人もいます。国内の先行研究もまだ多くはなく、自分たちがやらなければ誰がやるんだという気持ちで、駆除・防除方法の研究を始めました」と入鹿くん。英語が得意な石本くんを中心に海外の論文を読みあさり、5つの対策を検証しました。その中で行き着いたのが「テープ防除法」です。

「外壁にステンレス板を貼ってヤスデを防除している住民もいますが、それだと費用がかかってしまう。もっと安価にできる方法として、テープによる防除法の検証と改良について研究しました」と木之下くん。目をつけたのは、水に強く外壁にも貼れて、不要になれば剥がせる養生テープです。各社の養生テープの中で一番安く買えるものを用意し、さまざまな実験を行いました。そして日立ハイテクが無償で貸し出した電子顕微鏡で、ヤスデの足と、素材の表面を観察。ヤスデの足は先端が尖っており、ヤスデが登れる厚紙の表面は網目状になっている一方で、テープの表面には網目がなく、足が掛けられないことが分かりました。「覚えていないぐらい色んなことを試した」と石本くんが言うように、紆余曲折の末、最も条件の良い養生テープと貼付方法を見つけ出し、2回の屋外実験では、それぞれ100%と98%と高い防除率を確認することができました。

  • 電子顕微鏡でヤスデの足(左)を見ると2μmの錐状になっていることが判明。
    テープ(右)には網目がないので足が掛からず、登れないと考察できる。

  • ヤスデをテープに上らせ、角度によって滑るかどうかを実験中(左)。
    人工飼育し、生態を観察しています(右)。

彼らの研究は、新聞などのメディアにも頻繁に取り上げられ、一躍、地元のヒーローとなりました。今や近隣住居の外壁には至るところに養生テープが貼られ、住民の平穏な生活を取り戻すことに貢献しているのです。

「研究を始めた頃は、あいつら虫ばかり捕まえて気持ち悪い、と白い目で見られていましたが、新聞に取り上げられ、みんなの反応が変わりました。近隣の皆さんからも直接感謝の言葉をいただきましたし、地道に研究を続けてきて、本当に良かったと思いました」と入鹿くん。電子顕微鏡でヤスデを観察したことをきっかけに、微生物に興味を持ち、微生物を研究できる大学への進学が決まったそうです。

2年生の長田くん、野口くん、重野くんは、先輩方の功績を引き継ぐプレッシャーを感じながらも、防除テープのさらなる改良と、ヤスデの駆除方法の研究を進めています。「侵入を防ぐだけでなく、ヤスデを見たくないという住民も多く、そのためには駆除が必要です。ヤスデは一定の時期に一定の場所に集まる習性があることが2年間の調査で分かっており、卵を産む今年の4月に生息場所を狙って薬剤を散布する予定です」と長田くんは、意気込んでいます。
さらには、ヤスデのフンや生態を観察し、ヤスデが好むものを見つけ、“ヤスデホイホイ”を開発したいと言います。先輩たちのDNAを引き継いだ彼らのさらなる発見に期待です。

2年生岡本くん
2年生上水流くん
2年生岩元くん
2年生岡崎さん
2年生田𦚰くん
2年生城戸内くん

次に訪れたのは体育館。放課後に遊んでいるようにも見える彼らがやっているのは、れっきとした研究です。紙飛行機の折り方、投げ方と滞空時間の関係性を科学的に研究しています。

長く飛び続ける紙ヒコーキを作ることは、誰もが一度は挑戦した夢ではないでしょうか。「研究するなら楽しいことをやりたかった」という彼らが見つけたのは日本航空株式会社主催の「JAL折り紙ヒコーキ全国大会」。そこで優勝することを目標に、研究を進めています。

「どんな機体が長く飛ぶかを研究するためには、初速度や発射角度を一定にする必要があります。どうしても人が投げるとバラツキが出るため、まずカタパルト(発射台)を作りました」とは紅一点の岡崎さん。最初は牛乳パックと輪ゴムで作ったそうですが、輪ゴムの力が弱く高く飛ばすことができません。そこで木材とカーテンレール、バネを使ったカタパルトを製作しました。

紙ヒコーキの折り方に採用したのは「スカイキング」という折り方です。折り紙ヒコーキ協会会長が発案し、29.2秒飛び続けたギネス世界記録があるのだとか。「カタパルトを使って同じ条件で飛ばしても、滞空時間に差が生まれました。では、どこで差が付いているかというと、紙ヒコーキを旋回させることが重要そうだと気づいたのです」と田𦚰くん。

  • 紙ヒコーキに科学的にアプローチ。
    カタパルトの角度、バネの長さを変えて、初速度、滞空時間、最高点までの時間を計測し、最適解を探しています。

  • 紙ヒコーキを投げる技術も大事。
    体をしならせて真上に投げて、頭の高さでリリースするのがコツだそう。

確実に旋回する紙ヒコーキを作るには、どうしたらよいのだろう?
文献を調べるうち、尾翼を上に折ると紙ヒコーキの姿勢が制御され、高く飛ばせることが判明しました。そこで、尾翼を片方だけ上に折り曲げて飛ばしてみたところ、機体が傾き、32機中17機が旋回に成功!しかし、まだ疑問が残ります。32機すべて同じように作ったのに、旋回した17機と旋回しなかった15機の差は何なのか…。
見た目では判断できないこの事象を科学的に分析するため、格子模様を印刷した紙で100機以上ものサンプルを用意。1機1機の機体のゆがみをコンピュータに認識させ、機械学習を使って、旋回する紙ヒコーキと旋回しない紙ヒコーキの規則性を探っています。

大会本番はその場で紙を折り、手で飛ばす一発勝負。1年間の研究成果が報われるかは、この一瞬に掛かっています。だから投げる練習も何度も何度も繰り返し行います。投げるのが一番得意なのは野球部の上水流くん。鹿児島県予選の優勝者は全国大会に出場できるとあって、全員が仲間であり、ライバル。毎日楽しみながら競い合っています。紙ヒコーキを投げる彼らの姿は、本当にキラキラと輝いていました。

後日、先生から連絡が入りました!鹿児島大会で、田𦚰くんが13秒97という記録を出し、準優勝したそうです。1位との差はわずか0.03秒。また、上水流くんと城戸内くんも13秒を超えたそうです。惜しくも全国大会出場はなりませんでしたが、仲間と共に切磋琢磨した時間は、将来の財産となることでしょう。
3年生久松さん
3年生安留さん
3年生平さん

最後は、笑顔が素敵なリケジョ3名が実験室で研究を紹介してくれます。手元にあるのは、ガスメーターと車用バッテリーを使った何かの装置のようです。

鹿児島といえば桜島。取材当日も桜島は噴火しており、火山灰と上手に付き合っていくことが県民の日常です。どこに火山灰が飛散するかを予測する「降灰予報」が日々の暮らしに欠かせません。火山灰が降っている場所にいると、目や耳が痛くなるそうです。なかでもSPM(Suspended Particulate Matter)と呼ばれる粒径10μm以下の浮遊粒子状物質は、器官に入ると呼吸器疾患の原因となり非常に危険です。

「環境省が設置した大気汚染物質広域監視システム『そらまめ君』は、鹿児島市内にある9カ所の測定局にしかなく、しかも約200万円と高価な装置です。県民が身近な場所で測定できるようにするには、より安価で携行性のある測定器が必要だと思いました。それが、私たちが作った『SPM君』です」と平さん。先行研究を参考に、ろ紙をフィルターとして設置した「吸引ポンプ」、吸引量を測定する「ガスメーター」、長時間測定を可能にする「車用バッテリー」を使用したSPM捕集装置を手作りしました。そして、水道管とLED、デジタルテスターを組み合わせて、ろ紙に反射した光の強度を図るSPM濃度測定器、「SPM君」を作りました。

  • SPM捕集装置(左)とSPM濃度測定器(右)。
    チームはこの研究で、第7回高校・高専『気象観測機器コンテスト』代表理事特別賞などを受賞しています。

  • SPMを捕集したろ紙を電子顕微鏡で測定し、粒子の大きさを一つひとつ測りました。

研究では、SPM君での測定結果とそらまめ君の測定結果を比較。さらに他の濃度測定方法とも比較し、携行性と価格の安さでSPM君が秀でていることを確認できました。 「地元のガス会社さんから使用期限切れのガスメーターをもらったり、いろんな方々の協力を得て、装置を完成させることができました」と久松さん。そして「研究を通じて自分で考えて動く力が身についた」と安留さんは語ります。「放射線技師」(平さん)、「化粧品開発」(久松さん)、「薬剤師」(安留さん)というそれぞれの将来の夢を語る3人。さまざまな賞を受賞した本研究での成功体験は、将来の仕事にも生かされそうです。

取材を終えて

すべての班に共通するのは、鹿児島の地域性を意識し、研究の成果を地域に還元しようとしているところです。高校生でもできること、高校生ならではの視点を大切にしていて、それが結果的に「誰もができること」になり、地域貢献につながっています。

錦江湾高校の良いところを尋ねると、「自然環境」と「研究環境」をみんなが挙げました。豊かな環境の中でのびのびと自分の好きなことを研究できており、充実した日々を送っているようです。こうした背景には、もちろん先生方のサポートも欠かせません。紙ヒコーキ班は、自分たちが好きなことをやらせてもらっていることを自覚し、化学が専門にも関わらず、物理のことを丁寧に教えてくれる先生の存在を心強く感じていました。また、ヤスデ班は、担当教諭だけでなく、他教科の先生方や校長先生も研究や発表の環境をサポートしてくれると、とても感謝していました。
生徒たちの自主性を伸ばし、未来に向かって羽ばたく力を育てる。科学教育の真髄がありました。

※本文中の情報は、2019年12月当時のものです

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