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日立ハイテク

透過電子顕微鏡HT7800シリーズの特長と応用

Introduction of the HT7800 series TEM and its application

長沖 功*1、田村 圭司*1、三瀬 大海*2、藤井 孝史*1、和久井 亜希子*3、和山 真里奈*3

はじめに

透過電子顕微鏡(以下、TEM:Transmission electron microscope)は、医学・生物学分野での研究・診断から食品・高分子・化学・ナノ材料の研究・開発まで、幅広い分野で活用されており、微細構造の形態観察に必要不可欠なツールとなっている。今回、様々な分野に対応するため、120 kV透過電子顕微鏡(TEM)HT7800シリーズを開発した。

本シリーズでは、高コントラストを極めたレンズを搭載し、広視野高コントラスト観察を実現するHT7800と、クラス最高レベルの分解能をもつ高分解能レンズを備えたHT7830を揃えた。

本稿では、開発したHT7800シリーズの特長とその応用例を紹介する。

HT7800の概要と特長

HT7800の外観写真を図1に示す。従来機種HT7700を継承し、蛍光板観察用スクリーンカメラによる明るい部屋でのTEM操作を実現している。HT7800シリーズは、加速電圧を20 kVから120 kVまで印加することができ、倍率は、50~1,000倍(LowMagモード)、200~600,000倍(Zoomモード、HT7830は最高倍率1,000,000倍)に対応している。

図1 HT7800シリーズ透過電子顕微鏡の外観
図1 HT7800シリーズ透過電子顕微鏡の外観

本装置は以下の4つの主な特長を有している。

(1)操作性
明るい部屋で簡単操作。新しいグラフィックユーザーインターフェース(GUI)と操作パネルにより、簡単かつ迅速なTEM解析を実現。
倍率変更時のモード切り換えを不要とした(オプション)。

(2)高画質
日立独自の複合対物レンズの搭載に加え電子光学系の改良により、HT7800では低倍率の広視野・高コントラスト観察、あるいはHT7830での高分解能観察と、試料・解析目的に応じ選択可能とした。さらに加速電圧20 kVでの観察も可能とし、無染色試料などの高コントラスト観察が実現した。
高分解能レンズ搭載の「HT7830」では軸上格子分解能0.19 nmを保証している。図2に、一例としてHT7830を用いて撮影した格子間隔0.19 nmのSiの高分解能TEM像を示す。

図2 Si単結晶高分解能観察例
図2 Si単結晶高分解能観察例
観察装置:HT7830 試料:Si単結晶 加速電圧:120 kV
観察倍率:1,000,000倍

(3)高機能
各種オート機能を標準搭載。
HT7800では、70度傾斜標準で3D用画像取り込み、並びに再構成機能を標準装備とした。
また、HT7800 / HT7830両機種に視野探しをサポートするナビゲーション機能を搭載した。「Image Navigation」機能は直感的な視野探しを実現し、読み込んだ画像上でエリアを指定することで、自動取得できるなど機能の向上を実現した。

(4)拡張性
各種カメラの選択、トモグラフィ、CLEM、STEM、EDXなど各種機能に対応し様々なニーズに応じ拡張性を持たせた。

応用例

無染色生物切片の高コントラスト観察

図3はHT7800を用いてラット坐骨神経の無染色切片を加速電圧80 kV、HCモード、直接倍率12,000倍で撮影した画像である。電子染色を施していない切片においてもラット坐骨神経内のミエリンがコントラスト良く観察されている。さらに、図3aの□部分を拡大して観察した結果を図3bに示す。ミエリンの層状構造が明瞭に観察されていることがわかる。このように、HT7800では、無染色切片を高コントラストで観察することが可能である。

図3 無染色生物切片の高コントラスト観察例
図3 無染色生物切片の高コントラスト観察例
観察装置:HT7800 試料:ラット坐骨神経 加速電圧:80 kV
(a) 観察倍率:12,000倍
(b) 観察倍率:40,000倍

燃料電池用電極触媒の高分解能観察

図4にHT7830を用いた燃料電池用電極触媒の高分解能観察例を示す。図4aは、加速電圧120 kV、HCモード、直接倍率100,000倍で撮影した画像である。カーボン(C)担体の上に担持された白金(Pt)粒子の分布が観察されている。さらに、図4aの□部分を拡大して観察した結果を図4bに示す。カーボン担体に0.34 nm間隔の格子像が鮮明に観察されている。HT7830では、このようなカーボンなどの軽元素を含んだ担体に担持された金属触媒粒子などナノ複合材料を高コントラストでかつ高分解能で観察が可能である。

図4  燃料電池用電極触媒の高分解能観察例
図4  燃料電池用電極触媒の高分解能観察例
観察装置:HT7830 試料:Pt/C触媒 加速電圧:120 kV
(a) 観察倍率:100,000倍
(b) 観察倍率:400,000倍

まとめ

バイオメディカル、ナノテクノロジー、ソフトマテリアルなどの幅広い分野に対応するためHT7800シリーズを開発した。本シリーズでは、従来機を継承したスクリーンカメラや複合対物レンズを搭載し、さらに性能、操作性、汎用性、拡張性を向上させた。広視野高コントラスト観察を実現する医生物向けHT7800と、高分解能レンズを備えた材料向けHT7830を揃えたことにより、様々な分野でのスクリーニングや、研究開発用ツールとしての適用が期待される。

著者紹介

*1 長沖 功、田村 圭司、藤井 孝史
(株)日立ハイテク 科学・医用システム事業統括本部 科学システム製品本部 電子顕微鏡第二設計部

*2 三瀬 大海
(株)日立ハイテク 科学・医用システム事業統括本部 科学システム製品本部 電子顕微鏡ソリューションシステム設計部

*3 和久井 亜希子、和山 真里奈
(株)日立ハイテク 科学・医用システム事業統括本部 科学システム製品本部 アプリケーション開発部

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