第34回日本医療薬学会 メディカルセミナー(ランチョンセミナー)
株式会社日立ハイテク/株式会社日立ハイテクサイエンス(現・株式会社日立ハイテクアナリシス)共催
座長:大山 要 氏 長崎大学病院 薬剤部
株式会社日立ハイテクと株式会社日立ハイテクサイエンス(現・株式会社日立ハイテクアナリシス)は共催で、第34回日本医療薬学会においてメディカルセミナー(ランチョンセミナー)「『うちでもデキル!』『私でもデキル!!』タイムリーなTDMの実践!!!Part3」を2024年11月3日、幕張メッセ国際会議場(千葉県千葉市美浜区)で開催した。
座長は大山要氏(長崎大学病院薬剤部)、演者を菅原(鈴木)義紀氏(宮城県立がんセンター 薬剤部/感染対策室、東北医科薬科大学大学院医学研究科 医学専攻博士課程感染症学)と原崎頼子氏(宮城県立がんセンター血液内科)が務めた。
実施日 2024年11月3日(日)
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演題 1
菅原(鈴木) 義紀 氏 宮城県立がんセンター 薬剤部/感染対策室 東北医科薬科大学大学院医学研究科 医学専攻博士課程感染症学
地方独立行政法人 宮城県立病院機構 宮城県立がんセンターは、病床数383床の東北唯一のがん専門病院として高度がん治療に取り組んでいる。同病院では2023年4月に「LM1010(高速液体クロマトグラフ)」を導入したが、それ以前は薬物血中濃度測定を外注していたという。
病院で用いられる薬物血中濃度測定には様々な方法があり、大きく免疫学的測定法と「LM1010」の高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)を含む分離分析法がある。病院内で実施される薬物血中濃度測定では免疫学的測定法が主に用いられている。
菅原氏は各測定法にはそれぞれ利点がある一方で、欠点もあり、薬剤師は薬物血中濃度測定の結果を解釈する際に測定原理を理解する必要があると指摘する。例えば大石泰也氏(福岡赤十字病院薬剤部/感染対策チーム)らは、多発性骨髄腫患者のバンコマイシン(VCM)血中濃度トラフ値が偽高値を示した症例について、化学発光免疫測定法(CLIA)を用いた薬物血中濃度測定で100 μg/Lを超える数値が得られたことを報告している(日本病院薬剤師会雑誌、2020年7月)。経験の浅い薬剤師は原理を理解していなければこの偽高値に気づけない可能性がある。菅原氏は病院内で薬物血中濃度測定を行っているならば、薬剤師はその測定手法や精度管理を検査部等に聞くことを推奨している。
各病院施設の精度管理については一般社団法人 日本臨床衛生検査技士会による品質保証施設認証などがある。一方、この認証にはTDMの項目が存在せず、TDMの精度管理については一般社団法人TDM品質管理機構がその役割を担っている。同機構はTDM検査品質の調査・研究を目的とするコントロール・サーベイ(QC)を実施しており、(株)日立ハイテクサイエンス(現・(株)日立ハイテクアナリシス)も参加している。宮城県立がんセンターは「LM1010」導入を機に、2025年から同機構のQCに参加を予定している。
臨床検査値の変動要因は生理的変動(個体間変動、個体内変動)、検体変動(採取条件、検体の取り扱い)多岐にわたるが、なかでも病態変動(病態の変化による変動、医療処置による変動)の頻度が高い。有名なのは血清クレアチニン(Cr)であるが、血管内脱水などでも高値が出ることがある。基本的なことだが、患者の病態を把握することは薬剤師が臨床検査値を利用する上で重要なことであると認識すべきだという。「LM1010」はHPLCを医療機関で汎用的に利用できるように開発された機器で、測定原理は(株)日立ハイテクの液体クロマトグラフのwebサイトに詳しい図が掲載されている。
同病院が「LM1010」を導入した理由として最も大きかったのは、外注の結果がわかるまでに非常に長い時間を要することだった。例えばVCMでは2~3日、連休を挟めば5日は要し、年末年始であればもっと長い時間を要していた。骨髄移植等を受けたがん患者をはじめとした病態変化が大きい患者が多く入院する同病院で、投与量の最適化が遅れることは治療を行う上で大きな課題だった。
菅原氏が「LM1010」導入を同セミナーの演者である血液内科医の原崎氏に相談したところ、賛同を得て原崎氏から院長への直談判を経て導入が実現した。価格については嫌な顔をされるも当初考えていたよりも導入はスムーズだったという。
現在、同病院で「LM1010」は臨床検査部に設置され、細菌検査室の手前、電子カルテシステムの近くという設置場所は、検査技師とのコミュニケーションのしやすさや記録のしやすさも併せて良い形で運用されているという。同病院では調剤薬局の薬剤師を研修で受け入れているが、こうした薬剤師にも「LM1010」を説明する機会があり、そのデザインや他のHPLCとの違いに驚かれることもあるという。
「LM1010」導入以降、菅原氏のみならず血液内科を担当する他の薬剤師も病態変化の重要性を再認識させられているという。
ボリコナゾール(VCZ)の代謝は、この代謝に関わる酵素遺伝子CYP2C19多型の影響を受け、日本人には代謝能が低い人(PM)が約20%存在することから薬物代謝に大きな個人差が生じることが知られている。一方でこれとは別に炎症の指標となるCRP(C反応性蛋白)が4 mg/dLを超えると代謝能が変化する症例が報告されている。実際に同病院でも同様の経験があり、具体的には当初測定でPMを疑ったが、次回の測定では血中濃度が下がりきっていた。こうした変化の把握は、「LM1010」導入により院内TDMが可能になったからでこそだという。
「LM1010」の測定手順は、薬剤ごとにテクニカルレポートが用意されていることから、この手順に沿って操作することで導入後すぐに利用が可能になったという。人の手を要するのはスイッチと前処理のみであるため、実際に「LM1010」の操作を試してみることを薦めている。
菅原氏は「検査結果は様々な要因によって変動しますので、それを知っておいて測定原理の利点欠点を把握しておくことで病態変化をしっかり捉えていかないと、誤った評価につながってしまいます。やはりそういった病態変化が大きく伴う領域に関わられている先生方にとって、この検査の迅速化は不可欠だと思います」と述べた。
演題 2
原崎 頼子 氏 宮城県立がんセンター 血液内科
原崎氏は血液内科医として、臨床におけるTDM、特にVCMとVCZのTDMについて症例を示し講演した。
重症の感染症患者の薬物動態は複雑で、併用薬や全身状態の変化によって大きく変動する。なかでもVCMは有効血中濃度と中毒濃度域が近く、定期的に薬物血中濃度測定を実施して投与量を設定する必要がある。またVCZはCYP2C19、CYP3A4で代謝されるが、CYP2C19には遺伝子多型が存在し、日本人にはPMが15-20%存在すると考えられ、定期的なTDMが推奨されている。
TDMが威力を発揮する薬剤はこうした有効血中濃度と中毒濃度域が近い薬剤、例えば抗菌剤ではグリコペプチド系(VCMやテイコプラニン)、アミノグリコシド系、抗真菌剤ではVCZがあげられる。抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022でも、適切な抗菌薬の選択、治療期間、抗菌薬におけるTDMの実施は抗菌薬適正使用支援(antimicrobial stewardship)を行う上での三本柱であるとされている。
同病院ではVCM、VCZの薬物血中濃度測定をいずれも外注で行い、結果の判明まで少なくとも3~4日を要していた。一方で、「LM1010」導入以降は即日の結果報告を得ている。測定結果を得るまで長期間を要することは、日々の業務に追われる状況で埋もれる危険性があると感じているという。
現在は休日祝日問わず即日で結果が得られるため、その数値をもとに投与量を変更してもその結果がすぐ得られる体制にある。原崎氏が個人的に最も感じている利点は、AST(抗菌薬適正使用支援チーム)の菅原氏らと薬剤種類と容量設定と情報を共有しながら治療を行うことができることで、患者に大きなメリットを提供できていると考えているという。
VCMはほとんど全てのグラム陽性菌に殺菌効果をもち、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MSA)やペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、βラクタム薬耐性コリネバクテリウムなど非常に殺菌が困難な細菌に有効な重要な抗菌薬として知られている。一般的に重症感染症例や抗生剤併用例に対し投与されるため血中濃度に非常に注意する必要があり、腎機能障害に注意する必要がある。
投与量設定に薬物動態解析ソフトウェアであるPAT、BMs-Podなどの使用が推奨されている。目標のAUC/MIC=400~600が推奨され、低ければ治療失敗となる可能性が高く、高ければ腎障害を引き起こすリスクが高くなるため、狭い濃度で調整が必要になる。トラフ値は10~20 μg/mL。
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022では、推奨される初回の血中濃度測定の時期は、軽中等症/非複雑性感染であれば4-5回投与直前(3日目)とされている。ただし重症/複雑性感染症であれば定常状態前の3回投与前後に初回の血中濃度測定実施を推奨し、1日2回投与では翌日、1日1回投与では3日目とされている。初回の血中濃度測定後は少なくとも1週間に1回PK評価を行うことが望ましく、投与計画を変更した症例ではそれよりも短い期間で測定を行うこととしている。
発熱性好中球減少症の起因菌は、おおよそ1990年以前はグラム陰性菌の検出が多かったが、近年の2001年以降はグラム陽性菌の検出が多くなっている。同病院の2014年度~2022年度における血培検出菌も、3309例に5739セットの血液培養を施行し、398例で694検体にグラム陽性菌を検出している。
VCZはアゾール系抗菌剤でFluconazoleの誘導体である。Fluconazole非感受性のCandida glabrata、C. krusei、クリプトコックス族、アスペルギルス属等に感受性が認められる。AMPH-Bと比べれば真菌スペクトラムはやや狭いものの、IDSAガイドライン等で安全性が高く評価されている。侵襲性アスペルギルス症の第一選択薬として推奨され、各種アスペルギルス症やカンジダ症の適用薬となっている。CYP2C9、CYP2C19、CYP3A4で代謝されるが、問題になるのはCYP2C19で遺伝子多型が存在し、日本人ではPMが15~20%を占めるため、使用時には定期的な薬物血中濃度測定が推奨されている。VCZ血中濃度が4 μg/mL以上で肝機能障害、眼症状の増悪が懸念される。
VCZの血中濃度を変化させる薬剤として、CYP3A4を誘導する薬剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピンなど)、CYP2C19、CYP2C9を誘導する薬剤(リトナビル、レテルモビルなど)があり、様々な薬剤がVCZの血中濃度を変化させる。
抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン2022で推奨される初回薬物血中濃度測定の時期は、負荷投与を行った場合は2~5日目に定常状態の濃度に近いトラフ値が得られるとしている。ただし初日の負荷投与と2日目以降の維持療法のPKを合わせて評価するために3~5日目のTDMを考慮することとしている。ただ重症真菌感染症では早期の有効濃度達成を確認するため3日目のTDMを考慮することとしている。またアジア人に比較的高率なPMではクリアランスが低下し、3日目以降も段階的に濃度が上昇する可能性があるため5日目のTDMを考慮することとしている。
成人で推奨されるTDMの目標値は一般的にはトラフ値が1.0 μg/mL以上だが、アスペルギルスによる感染症では2 μg/mL以上を考慮し、4 μg/mLを超えると副作用が増加するため、これ未満が推奨されている。
同病院では2023年4月24日~2024年8月31日まで80症例に200件のVCM TDMを施行した(約12.5件/月)。外注で行っていた2022年1月1日~2023年4月23日(外注期)は113件(約7件/月)であり、「LM1010」導入以降(院内TDM期)は施行数が約2倍に増加した。原崎氏は外注では結果が得られるまでに時間を要するため対処が遅くなり、TDMの施行数が少なくなり、導入で安全に投与が行われていることの現れとみている。
院内TDM期は19症例に60件のVCZ TDMを施行したが、外注期VCZ TDMはほぼ施行していなかった。院内でTDMが可能になり、ASTにTDMを求められ測定するようになった経緯がある。
外注期の1症例ごとの血中濃度測定数が1-2回、最大3回であったのに対し、院内TDM期は増加し、症例によっては5回もあった。前回の薬物血中濃度測定から次回の薬物血中濃度測定までの日数は外注期が2~5日目だったが、院内TDM期は翌日(1日目)から開始されるようになった。
院内TDMで設定したVCM投与量が適性であったかは、全体で198件中102件(51.0%)が適性だった。一方で、注目すべきことに投与開始後初回検査ではソフトウェアを使用しているにもかかわらず89症例中41症例(41.4%)は適正量でなく、不足症例が43症例(43.4%)もあった。VCMが効果を発揮するにはすばやく薬物血中濃度測定を行い必要な薬物濃度を維持する必要があることが浮き彫りになった。
2024年1月にかかりつけ医での採血でWBC(白血球数)4500 /μL、blast(異常細胞)24%と異常値が示され急性白血病が疑われ同病院が紹介され、骨髄穿刺で急性骨髄性白血病(AML)と診断された。
1月19日からVenetoclax+Azacitidine療法を開始し、3月21日に骨髄穿刺でblast残存が示されたが、高齢のためさらなる追加薬剤投与が困難で同療法3コースを経て4月11日に発熱性好中球減少症を発症し、血液培養は陰性でセフェピム(CFPM)による治療を開始。4月16日の血液培養でEnterococcus faeciumが検出され、4月19日からVMC投与を追加した。
ベースラインのCrは0.55~0.66で、4月18日のCrは0.62、CCrは56.9 mL/minだった。VCMの投与設定は、4月19日10時に1500 mg/250 mL、同日22時に500 mg/150 mL、4月20日10時に1500 mg/250 mLで、以降24時間ごとだった(推定トラフ12.0 μg/mL、推定AUC/MIC 542.2)。一方で4月22日にCrが0.91に上昇し、CCrが37.4 mL/minに低下し、トラフ値が15.331 μg/mL、ピーク値が39.783 μg/mL、推定AUC/MICが583.6だった。
これに対し、4月23日10時にVCM 1250 mg/250 mL、以降24時間ごとに減量が提案され施行するも、4月26日のTDMでCrが0.90、CCr38.1と腎機能低下がみられ、トラフ値18.275 μg/mL、ピーク値36.758 μg/mL、推定AUC/MICが661.1>550だった。VCM減量するもトラフ高値で腎機能も悪化したことからVCMを中止し、テイコプラニン(TEIC)が推奨され施行することで患者は危機を脱した。
2022年7月から全身倦怠感が出現し、2023年1月に全身倦怠感が増悪し、受診により汎血球減少、末梢血にblastが出現していたことからAMLが疑われ同院を紹介され、骨髄穿刺でAMLと診断された。
1月18日からVenetoclax+Azacitidine療法を開始したが非寛解、6月28日からVenetoclax+Ara C療法に変更するも非寛解で、blastのコントロールを目的に9月からハイドレア内服を開始した。10月13日に咳の訴えがあり、肺炎の診断で入院するも血液培養は陰性だった。この時WBC 1200 /μL、好中球1.0%だった。
10月19日のCrは0.58、CCrは64.2 mL/minだった。VCMの投与設定は、10月19日10時にVCM 1750 mg/250 mL、22時にVCM 750 mg/100 mL、以降同量を12時間ごとに継続した。10月22日にトラフ値が11.039 μg/mL、ピーク値が26.864 μg/mL、推定AUC/MICが417.4で良好に維持。一方で10月23日にはCrが0.48、CCrが77.6 mL/minに上昇し、トラフ値が7.571 μg/mL、ピーク値が15.592 μg/mL、推定AUC/MICが316.3に低下。Crが低下し、クリアランスの増加がVCMの血中濃度増加につながった可能性が示された。
これに対し、VCM増加が提案され、10月24日からVCM 1250 mg/250 mLを12時間ごとに増量したところ、10月27日にトラフ値が12.791 μg/mL、ピーク値が28.471 μg/mL、AUC/MICが521.4へと好転し投与は継続された。一方で11月13日にCrが0.90、CCrが60.2 mL/min、トラフ値が18.396 μg/mL、ピーク値が38.624 μg/mL、AUC/MICが558.7に上がった。腎機能の低下によりトラフ値が上昇していることからVCM 1000 mg/100 mLを12時間ごとに減量した。
VCZは投与期間が長いことから血中濃度測定は11回に及んだ患者も存在した。院内TDMで設定したVCZ投与量が適性であったかは、全体で60件中31件(51.6%)が適性だった。一方でVCMと同様に投与開始後初回検査では19症例中8症例(42.1%)しか適正量でなく、過剰が7症例(36.8%)と多かった。特に高かった5 μg/mL以上の3症例(15.8%)は血中濃度が判明した当日から投与量の減量を行うことができ、肝機能障害を防ぎ投与継続を行うことができた。
2022年3月に右肺下葉切除術を施行するも同年9月に縦隔リンパ節に再発し、同年10月にオシメルチニブ80 mgの投与を行ったが病態進行(PD)により中止。この時に間質性肺炎(薬剤性)を発症しプレドニゾロン(PSL)の1 mg/kgを開始するも3ヶ月後の5月に右上葉に空洞を伴う浸潤影が出現し、侵襲性肺アスペルギウス症が診断された。
5月22日からVCZ 600 mg分2で投与を開始し、23日から400 mg分2で内服開始した。25日のVCZ血中濃度は4.686 μg/mLと高く、PMの可能性から26日には中毒域に達することが予想された。
これに対しVCZ減量が提案され、減量を施行し、6月2日のVCZ血中濃度は3.6 μg/mLで継続した。一方、その後に血糖の上昇に対し併用薬として血糖降下薬(アマリールⓇ)が投与され、6月26日の血中濃度測定で血中濃度が6.866 μg/mLに上昇していた。当日の夜分のVCZは中止し、27日からVCZ 100mg、2回食後投与に減量が提案され、同日に血中濃度測定を行うも7.02 μg/mLと高値だった。
代替案としてVCZの消失が7月1日と予想されたことから、L-AMPH-Bもしくはイサブコナゾール(ISCZ)への変更が推奨された。L-AMPH-Bは腎機能障害の危険があり退院後も継続することを考慮してISCZの選択が望ましかったが、同薬剤は当時流通制限により処方困難だった。科内カンファレンスを行った結果、定期的な血中濃度測定を施行しつつVCZ継続が望ましいとしたが、病態が進行し胸水貯留に対し胸膜ドレナージが施行されVCZは中止された。
原崎氏は「院内TDMが可能になったことによって、抗生剤、真菌剤をより安全に、より効果的に投与することが可能になったと考えております」と述べた。
質疑応答
講演終了後の質疑応答では座長の大山氏が菅原氏、原崎氏に質問した。
大山氏は講演で言及したCYPの遺伝子多型による薬効の個人差について、他の薬剤でも注意すべきか菅原氏に質問した。
菅原氏は、抗菌剤以外にも注意すべき薬剤はあり、浜松医科大学が報告しているがん性疼痛の初期治療薬として使用されるトラマドールをはじめ、同病院でも検討していきたいと回答した。
また原崎氏には、講演で紹介したVCM、VCZ以外についてもTDMに取り組む予定があれば、どのような薬剤を検討しているか質問した。
原崎氏は、テイコプラニンをまず挙げ、個人的には増やしていきたいものの、マンパワーの問題もあり現場と相談していきたいと回答した。
対 談
メディカルセミナー終了後、大山氏を進行役に、菅原氏、原崎氏による対談が行われた。まず大山氏は菅原氏に、改めて免疫学的測定法で注意すべき点を質問した。

大山氏

菅原氏

原崎氏
菅原氏は、今回は抗菌薬について紹介したが抗菌薬以外にも抗体に反応する物質が存在し、実際に同病院でも経験したことがあり注意すべきだと述べた。また、免疫学的測定法は普及しており原理を理解しやすいものの、試薬に依存していることから輸入が滞ると測定が不可能になる可能性にも注意が必要だと述べた。
次に大山氏は原崎氏に、「LM1010」導入によって医師として今後期待していることを質問した。
原崎氏は、VCMは安価で効果が高く優れた薬剤だが、以前は腎機能障害が発生する危険性から医師としては使いづらい気持ちが生じ、それが使用症例数の少なさに表れたのではないかと見解を述べた。まだ検証はできていないものの、これまでVCM以外の高価な薬剤を使わざるを得なかった症例でもVCMを中心的に使用できるようになり、医療経済的な利点は高いという。またVCZについても、従来は肝機能障害の発生で中止例もあったが、血中濃度測定によって適正な量を投与でき治療を継続できるため、医師は非常に助かっていると述べた。
さらに大山氏は、薬剤師には近年TDMに対する意識の高まりがある一方で、医師達の意識はどのようなものか質問した。
原崎氏は、医師は薬物血中濃度を中心的に勉強していないため苦手意識があるように感じているという。自身は血液内科であるため抗生剤を多用することから、最近になって勉強しTDMの重要性を理解したが、意識の差は診療科によって大きく異なっているのが実情だという。
それに対し大山氏は、検査結果が迅速かつ高頻度に返ってくることで、それを見た医師のTDMに対する意識が高まっていくのではないかと期待を述べた。原崎氏はそれに同意し、自身は菅原氏からの提案で薬物血中濃度測定を行いVCZについて理解が深まったことを実感しており、こうした提案が身内から出てくる環境が重要だと思っていると述べた。
また大山氏は、とはいえ「LM1010」の導入で薬剤師の中でもTDMに対し意識には温度差があるのではないかと菅原氏に質問した。
菅原氏は、同病院では診療科の再編のタイミングであったこともあり、病棟薬剤師が誰でも薬物血中濃度の解釈に初期から関わる必要があり、そうした文化が構築されつつあったという。その中で、土日祝日も血液内科から薬物血中濃度に関する相談がある状況で、これまでTDMに関わって来なかった薬剤師や自身より上の世代の薬剤師からも対応できるようになりたいという意見が多く寄せられ、意識の高まりを感じているという。
最後に大山氏は「LM1010」を含め、TDMが広がっていくことでどのようなことを期待しているか質問した。
菅原氏は、「LM1010」の最も良いところは、測定系を確立することで対象薬剤がさらに拡大できる可能性があることだという。菅原氏は個人的に、敗血症診療ガイドライン2024で持続投与などが記載されるβラクタム系抗菌薬のTDMの実現を期待。TDMが普及することで情報が集まりTDMの重要性はさらに増すと考えているという。また「LM1010」が日本のTDMを変えていける機器になるのではないかと期待していると述べた。
大山氏は、自身で行ってきた血中濃度測定は専門性が高かったが、「LM1010」が開発されたことで裾野が広がり、学問領域を含め薬剤師の医療における役割が変わってくると思っているという。血中濃度測定が日常診療に当たり前になれば、薬剤師の果たす役割が広がり、TDMは量だけでなく質も上がっていくことになると思っていると述べて締め括った。
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