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構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術

10. クライオ電子顕微鏡法(Cryo-electron microscopy)(1)

* 当サイトに掲載している文章・画像などの無断転載を禁じます。

生命現象を理解するには活動状態の細胞内構造を高分解能で解析することが強く望まれる。しかしながら、電子線をプローブとする電子顕微鏡では鏡筒内を高真空にする必要があり、それ故、試料は真空中に置かれることになる。
したがって、時間と共に変化する細胞運動や機能を計測することは電子顕微鏡では今のところ不可能である。
時間軸に沿った生物機能の計測は難しくても、固定などいっさいの前処理なしで蛋白質分子やその複合体を高分解能観察する試みは様々なレベルで行われてきた。その一つの解答が急速凍結により生物試料を薄い氷の中に包埋し、観察する氷包埋法である。Live cell imagingとはいかないまでも、急速凍結により瞬間的に動きを止め、光学顕微鏡では不可能な高分解能構造を明らかにする方法である。
水を含んだ生の状態の蛋白質分子の構造や膜細胞骨格などの自然状態の構造を観察できる。クライオ顕微鏡は実は装置の名前であり方法名ではない。しかし、氷包埋した試料はすべてクライオトランスファーを使用し、 極低温にまで冷却された試料チャンバーを装備したクライオ電子顕微鏡で観察するため、このような観察法の総称としてクライオ電子顕微鏡法という名前が何時しか使われるようになった。
いっさいの前処理をしない試料は電子線照射による損傷を受けやすく、5~8/Å2の電子数が限界と言われている。したがって、写真は低倍で素早く撮る必要がある。通常は電子顕微鏡に取り付けられた高分解能CCDカメラで撮影する。
また、焦点面では強度コントラストが極めて低いので5~10µm defocusして位相差干渉を引き起こし、コントラストを上昇させる(いわゆる位相コントラスト)。 ただ、Defocusはいわゆるボケを生じさせることであり、実質分解能を減少させることになるので、出来るだけ最小のdefocus量にする。
ここでは試料処理について解説し、クライオトランスファーをへて顕微鏡に試料を設置するまでの過程は使用する機種により異なるので、それぞれのマニュアルを参照されたい。

(1) 精製蛋白質の氷包埋法

精製蛋白質、特に分散している小さなものの氷包埋観察は何を見ているのか分らないほど困難なことが多い。実際、初めて観察するのであればCCDカメラや写真に撮影しても試料がどこにあるか分らないほどである。
そこで、溶液に酢酸ウランを使い、クライオネガティブ染色として観察することもある。また、酢酸ウラン溶液を0.005%程度にするとどういうわけかネガティブ像ではなくポジティブ像としてコントラストが上昇する。
多くの場合、分散系の精製蛋白質では1枚の写真から構造を割り出すことはなく、1,000個以上の観察像をもとに単粒子解析法により立体再構築を行うのが一般的である。

準備するもの:

  • クライオトランスファー
  • クライオ電子顕微鏡(または通常の電子顕微鏡)
  • 急速凍結装置
  • 精製蛋白質
  • 膜穴貼付グリッド(またはクオンティフォイル貼付グリッド)
  • 100μL用ピペットマン

プロトコール:

  1. ロッキングピンセットで膜穴貼付グリッドを挟み、急速凍結装置に装着する。急速凍結は液体エタンへの浸漬でおこなう。
    試料が極めて小さいのでこのような凍結でも十分急速凍結となる。クライオ電子顕微鏡用の浸漬急速凍結装置は海外2社から発売されている。両方ともかなり高価なので図1のような手作り装置でも使えるが、ある程度の勘と熟練を要するので歩留まりの悪い試料作製となる。
  2. グリッドに試料10µLをピペットマンで載せる。濾紙で余分な溶液を吸い取り、直ちに液体エタンに浸漬し凍結する。ほとんど乾く一歩手前まで水分をとるのがこつである。
    販売されている急速凍結装置には全自動なものもあり、その場合はマニュアルに従えば良い。ピンセットが液体エタンに突っ込まれる直前に濾紙で裏打ちされたシンバルのようなものでメッシュを挟んで余分な試料液を除いてくれる。
  3. 凍結後は一旦液体窒素中に蓄えることもできるが、直ぐにクライオトランスファーにセットし、電子顕微鏡に持ち込み観察する。
    長く液体窒素中に保存すると試料の上に霜が付き観察できなくなる。液体窒素中でも霜がつかないようなフタの付いたメシュケース(5枚ほど収容できる)も販売されているが、出来るだけ早く観察するべきである。
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図2および図3はチューブリンから再構成した微小管を氷包埋し、クライオ電子顕微鏡で撮影した写真である。

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