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構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術

4. 凍結置換法(freeze substitution)(1)

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(1) 凍結置換(freeze substitution)

凍結置換法は凍結標本を樹脂包埋に導き切片として観察する方法で古くから行われている。 昔は凍結置換後パラフィンへ包埋し切片を作り光学顕微鏡で観察した。その目的は現在と同様、新鮮状態の構造観察であったが、それほど流行しなかった。理由は定かではないが、多分凍結切片のほうが容易であり、また光学顕微鏡レベルでは両者の像質にそれほど差がないことによるのであろう。 電子顕微鏡が普及してからもすぐに応用されたわけではない。逆に高倍率で分解能が高ければ高いほど凍結による氷晶形成は致命的であった。従って、この方法の本格的リバイバルは近年の急速凍結法の発達とともに始まった。
最近ではこの方法が細胞形態を新鮮に近い状態の切片像として捉えるだけでなく、免疫細胞化学のための固定法としても最適であることがわかってきた。
凍結置換というからには凍結標本が出発点であり、当然凍結の良否が最終的な切片像に大きな影響を及ぼす。従って、前述の加圧凍結法か冷却金属への圧着凍結法により急速凍結した標本を用いる。
凍結後の本実験の流れを(図1)に示す。温度を上昇させず、標本中の氷を低温でも液体である水溶性の溶媒と置換させるのがこの方法の原理である。

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一般にこの溶媒にはアセトンを用い、あらかじめオスミウム酸を1~2%濃度として溶解させて使用する。アセトンは-80℃でも液体であり、凍結組織中の氷と容易に置換する。氷との置換はいわば脱水に相当する過程である。
つまり脱水と固定が同時に行われると考えればいい。ただし、これらの反応は氷が再結晶化しない-80℃近傍で進行しなければならない。それにより、構造蛋白質の崩壊や移動は抑えられる。従って、凍結時(つまり新鮮状態)の形態を観察するのに適しているというわけである。
この置換過程は凍結標本を-80℃の溶媒に漬け、そのまま低温に保つことで行われる(約2日間)。その後は徐々に温度を上昇させ室温に戻す。温度の上昇とともに固定剤と組織蛋白質はより一層反応し強く固定される。室温に達したならば過固定を避けるためにもただちに純粋なアセトンで3回洗浄する。
これ以後の過程は一般の化学固定組織の脱水後の包埋過程と全く同じである。すなわち、酸化プロピレンによる浸透過程を経てエポキシ樹脂に包埋する。包埋後は従来の超薄切片法で観察する。

準備するもの:

  1. 凍結標本
    組織は急速凍結するのが望ましい。
  2. ガラス瓶
    容量8~10mL程度のネジ口パッキン付きのものがいい。
  3. アセトン
    置換剤と低温浴を作るのに用いる。従って、特級と一級試薬を用意するといい。置換剤(溶媒)は理論的には-80℃で液体であり、かつ水溶性であれば何でも使用できる。実際、テトラハイドロフランではアセトンとほぼ同等の結果が得られる。
  4. 固定剤
    アセトンに溶ければ何でも使用できると思うが、形態の保存にはオスミウム酸が一番いい。もちろん、タンニン酸、グルタールアルデヒドも使用できる。 切片上で免疫ラベルするときはタンニン酸やグルタールが便利である。
  5. ドライアイス
    アセトンと混ぜて低温浴を作るのに用いる(約2Kg必要)。超低温冷凍庫やライカ社製の凍結置換装置 EM AFS装置を使用する場合は必要ない。
  6. 魔法瓶
    容量1,000mL程度のガラス製もしくはステンレス製のものがいい。ドライアイス-アセトンをこれに入れ-80℃の冷温浴を作る。超低温冷凍庫やライカ社製の凍結置換装置 EM AFS装置を使用する場合は必要ない。
  7. 発泡スチロール
    10×15cmで深さが5cmぐらいのものがあれば最適である。液体窒素を入れ、 凍結標本を一時的に保存したり、アセトン溶液を凝固点まで冷却したりするのに使用する。

実験手順:

  1. -80℃の低温浴を作る。魔法瓶に細かく砕いたドライアイスを詰める。上からアセトンを注ぎ、ドライアイスの表面から3cmぐらい下まで貯める。
  2. 置換剤を作る。アセトン50mLにオスミウム酸1gを溶かす。
    オスミウム酸はアセトンにすぐ溶解する。ただちに8mL程度のねじ口ガラス管瓶に分注する。管瓶の標識はダイヤモンドペンを用いて置換剤を入れる前におこなうオスミウム-アセトン混合液は長く貯蔵できないので使いきる。0.5gのオスミウム酸結晶が手に入れば無駄を省ける。免疫細胞化学用に凍結置換するのであればオスミウム酸は使用しない。アセトンのみによる置換でもコントラストは低いが形態はかなり保存される。また、非常に高い免疫性も維持されている。2%程度のタンニン酸やグルタールアルデヒドをアセトンに溶かし置換剤とすれば免疫性とともに形態もよく保存される。グルタール置換剤を作るには70%グルタールアルデヒド水溶液100µLを10mLのアセトンに溶かし、さらにモレキュラシーブなどで水分を除く。約0.7%のグルタール、アセトン溶液ができる。
  3. 置換剤の冷却。
    置換剤を管瓶に入れ、ドライアイスアセトン中に20分ほど置き置換剤を-80℃にする。急ぐ場合は置換剤を管瓶ごとに半分ぐらいの高さま で液体窒素に漬け、周囲の置換剤が凝固してきたところで使用する。
  4. 凍結試料を冷却した管瓶に素早く入れ、固くキャップを閉める。
  5. 凍結試料の入った管瓶をただちに-80℃の低温浴に沈める。
    2日間そのままにしておく。翌日必要に応じてドライアイスを足して低温浴を-80℃に保つ。置換に要する時間は組織の種類によって違ってくるので自分の試料にあった時間を探さなければならない。しかし、一般的に動物の組織では2日で十分である。また、培養細胞などでは1日で十分な置換固定ができる。
  6. 2日間-80℃に保った後、試料の温度を除々に上昇させる。
    これは次のようにして行う。-20℃の冷蔵庫に1時間放置した後、さらに4℃の冷蔵庫に約20分間入れる。そののち冷蔵庫から出すと4~5分で室温に達する。
  7. 室温に達したならばただちに純粋アセトンで洗う。
    10分ずつ3回管瓶の中のアセトンを入れ替えることにより洗浄する。この段階で試料をアセトンの入ったシャーレに移し、カミソリでトリミングする。中心部の凍結良好と思われる部分だけを残し、周辺を捨てると後で切片作りが楽になる。
  8. 15分ずつ2回酸化プロピレンで浸透させる。
  9. 酸化プロピレンとエポキシ樹脂混合液とを1:1で混ぜ合わせ、これに試料を漬け、デシケーター中でオーバーナイトさせる。この時管瓶のキャップを外し、酸化プロピレンを徐々に揮発させエポキシ樹脂の濃度を上昇させる。
  10. 包埋用のモールドに新鮮なエポキシ混合樹脂をそそぎ、これに試料を入れ、低真空で脱気した後60℃のオーブンで硬化させる。

冷却金属への圧着により急速凍結した場合、凍結の良好な部分は試料の中心表面部分であることが多いから、中心部分を含んだ切片を作る。
凍結良好部分を見つけるまでは圧着方向に対し直角に切片を作るのが一般的あるが、こうすると切片は細長いリボン状となる。従って薄切は多少難しくなるのでダイヤモンドナイフを使用することを勧める。切片は従来の切片法どおりウランと鉛の二重染色をして観察する。

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