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構造細胞生物学のための電子顕微鏡技術

8. 単離した分子を見る(3)

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(3)マイカフレーク法

1983年John Heuserにより開発された方法で精製に用いた溶液や塩に依存しないなど優れた点が多い。
基本的にはフリーズエッチングレプリカ法であり、細胞や組織のかわりにマイカ断片を用い、そこに試料分子をちりばめた人工細胞と考えればいい。試料とマイカ断片の懸濁液を急速凍結し、フリーズエッチングレプリカを作り電子顕微鏡で内部を観察するとオルガネラや線維の代わりに試料分子が観察されるというわけである。
エッチング(かるい凍結乾燥)をするのでかえってグリセリンは必要なく、精製してすぐの分子が望ましい。精製条件によらず新鮮な分子を観察できる極めて有用な方法であるが、あえて欠点をあげるとフリーズエッチングレプリカ法などの習熟と様々な高価な機器類が必要なところに難点がある。蒸着角度も2.5度というような低角度である必要はないが、観察対象が小さいのでやはり低角度のほうがきれいに観察される。
この方法のキーポイントは極めて小さなマイカ断片(マイカフレーク)を作ることである。すなわち凍結試料の割断に際し、マイカも割断されてしまう。
マイカ割断面には試料分子は存在せず、その後のエッチングで近傍の別の非割断のマイカ表面に付着している試料分子が露出され観察される訳である。したがって、再度割断されにくいほど薄く、かつ露出頻度が高くなるほど細かいほうがこの実験には適している。

実際の手順
準備するもの:

  • マイカフレークスラリー(マイカ断片懸濁液)
  • 急速凍結装置
  • フリーズエッチングレプリカ装置
  • フッ化水素酸
  • プラスチックディッシュ
  • ピンセット

作製手順:

  1. マイカフレークスラリー(マイカ懸濁液)を作製する。マイカを鋏で5mm×7mm以下の小断片に切り、20枚(量は適当でいい)ほど15mLのコニカルチューブに入れる。
    蒸留水を5mL注ぎ、ブレンダー、ホモジナイザー(Virtisその他;要するに粉体にできればいい)で5分ほど高速で粉体にする(図2参照)。2分間ほど放置し、多少濁っている上清液を用いる。完全に透明になるようであれば磨砕が不足しているので、さらにホモジネートする。
    上清を1.5mLのエッペンチューブにとり1,000~2,000回転で遠心し、今度は上清を捨て、沈殿をマイカスラリーとして使用する。
    試料分子のマイカ面への接着を促進するために1M KClで処理する方法もある(片山1990)。このためには沈殿を再度1M KCl溶液で溶解し、再び遠心してマイカ細片を集める。KCl上清溶液を捨ててから、蒸留水を入れよく撹拌し、また遠心によりマイカ細片を集める。これをもう一度繰り返した後の沈殿(マイカ細片)を実験に用いる
  2. フリーズエッチング用の試料台にマイカフレークスラリー(マイカ懸濁液)をのせ、つづいて精製した試料分子を載せる(図2)。
  3. 試料台に載せた試料を金属圧着法で急速凍結する。すなわち、このステップまでに急速凍結装置を立ち上げ、銅ブロックを冷やしスタンバイしておく。
  4. フリーズエッチングレプリカ装置に凍結試料を持ち込み、試料表面(1µm~5µm)を割断除去し、-90℃で約5分エッチングする。(高真空中に放置し、表面から氷を昇華させること、表面の凍結乾燥に相当)
  5. 白金を試料面に対し5度の角度で約30秒蒸着する(日立フリーズエッチング装置 FR-9000の場合)。続いて炭素を補強のため高角度から蒸着する。一般に装置や蒸着電流により膜圧は変化するが、いずれの場合も試料面上で白金は3nm、炭素は10nmぐらいが適当である。
  6. 口径3cmぐらいのプラスチックディッシュに10%フッ化水素酸を入れ、蒸着後の試料をここに浮かべる。大きさに依存するがマイカが完全に溶けるまでには2時間から12時間ほど必要である。その後、蒸留水で3回洗浄後、支持膜を張ったメッシュに拾い電子顕微鏡で観察する。(この部分はフリーズエッチングレプリカの章を参照)
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低角度回転蒸着法によるDNAとRNAポリメラーゼとの結合状態の観察例を下に掲げる。

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参考文献

* Heuser J.E:Procedure for freeze-drying molecules adsorbed to mica flakes.
J.Mol. Biol, 169:155-195(1983)

* 片山栄作:「マイカ細片法」
実験医学「蛋白質分子を見る」月田承一郎、矢原一郎 編、Vol 8, No.5(増刊) pp 42-48

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