腎生検は、腎炎やネフローゼ症候群などの診断と治療方針を左右する、極めて重要な検査です。その発展を支えてきたのが光学顕微鏡と透過電子顕微鏡(TEM)でした。しかし、TEMの精緻な世界は、同時に熟練者の領域でもありました。そこに登場したのが、低真空走査電子顕微鏡(LVSEM)※1です。本記事では、簡便な操作で3次元像が観察できるというLVSEMが腎生検の現場でどう活用され、病理診断の可能性をどう広げているかをひもときます。
昭和医科大学医学部
顕微解剖学
教授
川西 邦夫 博士( 医学)
東京女子医科大学腎臓内科医員、同大学病理診断科助教を経て、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員。帰国後、筑波大学腎・血管病理学テニュアトラック助教、同大学実験病理学助教、昭和大学医学部顕微解剖学准教授を経て現職。博士(医学)。専門は腎臓内科学、実験病理学、糖鎖生物学。
昭和医科大学医学部
臨床病理診断学講座
特任教授
本田 一穂 博士( 医学)
虎の門病院病理部医員、東京女子医科大学医学部助手、東京女子医科大学医学部准教授、昭和大学(現・昭和医科大学)医学部解剖学教授を経て2025年度より現職。博士(医学)。専門は腎病理学、人体病理学、腎臓内科学。
※1 TEM(透過電子顕微鏡)と低真空SEM(走査電子顕微鏡)は、観察対象と情報の種類が異なる。TEM は超薄切片の「内部構造」を超微形態レベルで観察するのに対し、低真空SEM は前処理なしで立体的な画像を観察する。TEM は分解能 0.1〜0.3 nm と高解像度で、低真空SEM は簡単な操作と含水試料の観察ができることが強み。
腎臓は、糸球体・尿細管・間質・血管といった微細な構造が密接に関わり合う臓器です。特に糸球体は毛細血管の塊で、その内部には足細胞や血管内皮細胞など、繊細な立体構造※2が存在します。
腎臓病理診断では、この構造のどこに、どのような変化が起きているかを見極めることが極めて重要です。これまで長年診断の柱となってきたのは、光学顕微鏡による観察に加え、透過電子顕微鏡(TEM)による超微細構造の観察でした。
一方で、TEMでの観察には大きなハードルがありました。TEMは、確かに高精細な像を提供します。しかし、それは限られた2次元断面です。構造を立体的に想像しながら読み解くには、相当な訓練が必要になります。
昭和医科大学医学部顕微解剖学の川西邦夫先生はこう振り返ります。
「糸球体の足細胞あるいは血管内皮細胞などを同定していくのですが、先輩に指導していただきながら観察しているときはどこに病変があるかわかっても、いざ自分1人でとなるとなかなか捉えるのが難しい」
また、TEM観察には、専用の試料の作製や重金属による染色、非常に薄い切片を作製しなければならないなど高度な前処理が必要です。設備も専用室が求められ、観察には暗室での長時間を要します。そのため、限られた施設でなければ扱いが難しいという現実もありました。
従来の腎生検における課題
・サンプルの希少性:腎生検で得られる組織は極めて少量である一方で、観察には多くの前処理が必要。
・情報の断片化:2次元の切片観察では、複雑な立体構造(ネフロンの走行など)を正確に把握することが困難。
・診断の属人化:高度な専門知識を要するため、診断医による判断のばらつきが生じやすい。
川西邦夫 先生
※2 腎臓には糸球体が約200万個あり、血液をろ過するフィルターの役割を担う。糸球体は毛細血管が糸玉のように丸まっており、そのろ過機能は血管内皮細胞、基底膜および糸球体上皮細胞によって構成される、ろ過障壁による。腎機能の維持と疾患に関与している。
その状況を変えたのが低真空走査電子顕微鏡LVSEMです。2006年に鳥取大学医学部解剖学講座の稲賀すみれ先生が、通常の光学顕微鏡での診断を行う組織をそのまま使ってLVSEMで立体観察する技術を初めて考案されました。
昭和医科大学医学部臨床病理診断学の本田一穂先生は当時を振り返り、「LVSEMによって、今まで平面的に見ていた腎臓組織が立体的に観察できるようになった。非常に大きなパラダイムシフトといいますか、私たちは疾患を捉える3次元の目を得たわけです」と語ります。
さらに重要なのは、試料作製のハードルを下げたことでした。従来の電子顕微鏡観察では専用の前処理が必要で、貴重な腎生検標本を追加で使用することに慎重にならざるを得ませんでした。
技術面では、東京腎臓研究所所長の山中宣昭先生(故人)と稲賀先生が提示した2つの染色法も追い風となりました。1つは細胞全体を可視化する白金ブルー法、もう1つは基底膜を明瞭に描出するPAM染色です。
「すでにツールが提示されていることで、若手も理解の足がかりが得られました」と川西先生は振り返ります。
本田一穂 先生
TEMが点を深く掘る顕微鏡だとすれば、LVSEMは面を広く立体的に見渡す顕微鏡といえます。しかも装置はコンパクトなテーブルトップ型です。
「電子顕微鏡を机の隣に置いて、仕事をしながら扱える。これは本当に驚きでした」と本田先生。
LVSEMの強みは
・既存標本を活用できる簡便性
・広範囲を一望できる広域観察
・立体的に構造を把握できる3次元の視点
にあります。
TEMは、確かに高精細な像を提供します。しかし、それは極めて限られた2次元断面です。構造を立体的に想像しながら読み解くには、相当な訓練が必要になります。その点、LVSEMは3次元で見るという直感的理解を可能にしました。
川西先生も「立体で把握できると、病変の見え方がまったく違う。若手研究者にとっても、構造のイメージが掴みやすくなるのは大きなアドバンテージでした」と強調します。
PAM染色や白金ブルー染色、マッソン・トリクローム染色など、日常の腎病理診断で用いる特殊染色との相性も良好です。専用暗室にこもる必要もなく、日常診断の延長線上で扱える点は、一般病理医にとっても大きな利点です。
腎臓に限らず、肝臓、心臓、肺などの主要臓器は、炎症性疾患などの過程で線維化※3が生じその機能が失われていきます。
「線維化は決して平面で起こっているわけではありません。立体的に何かを包み込む、あるいは何かを固くしてしまうという構造を捉えるには、立体観察が何より有効です。それを捉える目となるのがLVSEMです」と本田先生。
臓器の線維化という病変を立体で捉えて、線維がどのような形で絡まっているのか、細胞とともにどう絡まって障害しているのか。LVSEMにはそうした知見を得る手段の1つとなることが期待されています。
※3 線維化は、体の組織や臓器が炎症や損傷を繰り返した結果、正常な組織が硬い線維成分(コラーゲンなど)に置き換わり、硬くなって機能が低下する現象。線維化は「慢性炎症の終着点」とも言われ、硬くなった組織は元に戻りにくいため、早期の診断と炎症を抑える治療が重要。線維化は心臓、肺、肝臓、膵臓、腎臓など全身の主要な臓器で発生する。
「装置は、触って使ってみて初めて価値がわかる」――本田先生はそう語ります。デスクトップに置ける電子顕微鏡という発想は、かつての常識を覆しました。腎生検を3次元的に観察する画期的方法であることに注目した故・山中宣昭先生が腎生検LVSEM研究会を立ち上げました。現在は、他臓器の病理診断や細胞診に応用する研究者が増え、研究会の活動も病理学全体へ広がり始めています。
本田先生は病理医について、それぞれに専門性を持ちながら、幅広く全身の病気を見ていくというトレーニングをしていると話します。
「私も病理医としてキャリアをスタートしました。剖検、いわゆる全身解剖を通して、亡くなった方の死因や病歴、治療の妥当性を検証してきました」
当時勤務されていた虎の門病院では、剖検率が約90%に達していました。亡くなった患者のほとんどが解剖され、診療の検証が行われる時代でした。この経験が、病気は全身で捉えるべきものという姿勢を形づくりました。
「特に血管内皮細胞は、免疫や感染の影響を受けやすい。腎臓は全身の変化を最初に映し出す臓器でもあります」と本田先生。
腎生検組織は、直径1ミリ、長さ1センチほどの小さな円柱状標本です。しかしそこには、ネフロンという機能単位の壊れ方が刻まれています。
「糸球体の大きさ、血管の太さ、壁の厚さを見ると、年齢や体格、生活習慣や糖尿病の病歴なども推測できます。30年以上の糖尿病も形に現れることがある」
本田先生は、それを『手相を見るよう』と表現します。
「壊れ方を見ることで、時間の流れがわかる。そこまで語ってくれる臓器は、ほかにあまりありません」
脳の一部を見ても、その人の生活史は読み取れません。しかし腎臓は違います。太さの異なる血管が密に入り込み、繊細な構造がさまざまな負荷で変化する。その変化は、生活習慣や慢性疾患の履歴を物語ります。
メディカルLVSEM研究会の前身にあたる腎生検LVSEM研究会が設立されたのは2017年でした。
川西先生は当時を振り返って、次のように話します。
「研究会を立ち上げた山中先生がLVSEMの有用性を大変情熱的に発表されていたことが、とても印象に残っています。これから見える世界が変わるんだという時代の始まりに立ち会えた感覚がありました」
研究を進める上で、特に大きく影響したのが装置の貸与制度です。
「日立ハイテクさんの協力もあり、研究会の助成制度で約1年間、装置を手元に置いて使うことができました。そこで、一緒に研究を進める臨床検査技師と出会い、染色法について『こんな方法はどうですか』『じゃあ試してみましょう』と、何度も試行錯誤を重ねました」
そのテーマの1つが、PAM染色条件の最適化です。従来のPAM染色を発展させ、LVSEMで最も見やすい条件を探るため、光学顕微鏡とLVSEMを行き来しながら、基底膜病変がより明瞭に浮かび上がる条件を確立しました。
検証に用いたのは、アルポート症候群の遺伝子異常を反映したマウスでした。その際にはヘテロジェナリティ、つまり患者さんごとに病変の現れ方が異なる状況をより正確に反映するため、あえて個体差が大きいX連鎖型のメスマウスを用いました。結果として、糸球体ごとの重症度の差をAIで定量化できるようになったのです。
透過電子顕微鏡(TEM)ではごく一部しか観察できなかった病変が、LVSEMではパラフィン切片上に存在する多数の糸球体を一括して評価できる。20個、30個、時には50個近い糸球体の病変を評価できる意義は極めて大きいものでした。
暗室にこもり長時間の観察が必要なTEMとは異なり、机の隣で日常業務と並行して扱えるLVSEM。この簡便さは多職種連携も可能にしたわけです。
卓上顕微鏡 MiniscopeⓇ TM4000PlusIII で撮影したマウス腎組織を観察する本田一穂 先生(右)と川西邦夫 先生(左)
疾患を読み取る力はLVSEMによって2次元から3次元へ移行しました。
本田先生は「腎臓を専門として3次元で見ているうちに、これはなんとしても他の臓器も観察したいという思いになり、一般の病理の方にこれを知ってもらって、日頃扱っている病理サンプルをLVSEMで観察することをすすめたいと思いました」とその活用の可能性を語ります。
そのころ腎生検LVSEM研究会は、8年間の活動を経て、一定の診断応用が確立されると、新たな動きが生まれます。
「細胞診の先生方が『これをLVSEMで見たらどうなるのか』と発想し、発表され始めたんです。そこから一気に世界が広がりました」
こうした背景から、腎臓領域を中心に発展してきた『腎生検LVSEM研究会』は、2025年に『メディカルLVSEM研究会』へと改称し、全臓器へと間口を広げました。
同年の11月には、第1回メディカルLVSEM研究会が開催され、心臓疾患の専門家や消化器疾患の専門家によるシンポジウムが行われ、非常に有益だったと評価されています。
こうした分野の広がりから、各臓器のエキスパートによる新たな知見が現れ、さらに悪性腫瘍という現在の医学の大きな課題に対してもLVSEMが活用されるきっかけになると本田先生は考えています。
「腎病理で培った立体的な視点は、他臓器にも応用できます。線維化を立体で捉えるという発想は、全身に共通します」
形態を立体で見ることが、健康診断やがんの早期発見に直結するには、まだ時間が必要かもしれません。しかし、「目に見える」ことは研究を加速します。メディカルLVSEM研究会は、診断・研究・教育を横断するハブとして、形態学の未来を拓こうとしています。この先にあるのは、大画像容量の処理および画像診断、AI診断の進化です。腎臓から始まった3次元観察は、やがて病理学や解剖学全体の共通言語になる可能性を秘めています。
一方で課題もあります。
TEMで培われたイメージと、LVSEMで見える像をどう結びつけるか。立体像をどのように疾患概念へ翻訳するか。AIによる画像診断の可能性も含め、発展の余地は大きいと言えます。
本田先生はこう補足します。
「腎病理医は電子顕微鏡に慣れていましたが、一般病理ではそうではありません。電子顕微鏡には重金属染色の知識が不可欠です。その技術を、電子顕微鏡技術者と一般病理をつなぐ形で発展させる必要があります」
しかし確かなのは、LVSEMが電子顕微鏡診断のハードルを下げ、形態学の魅力を再発見させたという事実です。
微量な組織から、最大限の情報を引き出す。患者さんの負担を増やさず、より深く病態を理解する。LVSEMは、腎臓病理の現場から生まれ、いま全身医学へと広がろうとしています。
長年にわたり腎生検と向き合ってきた昭和医科大学の本田一穂先生は「疾患というものは、全身で捉えないと本当の姿は見えてきません」と語ります。その姿勢を学びつつ、LVSEMとAIを組み合わせ、遺伝性腎疾患の診断精度向上に取り組んでいるのが同じく昭和医科大学の川西邦夫先生です。AIやオミクス解析が急速に発展するいま、病理診断はどこへ向かうのでしょうか。LVSEMの登場は、形態学と分子情報をつなぐ新たな可能性を生み出しています。
本田一穂 先生(左)と川西邦夫 先生(右)
腎臓は血管が豊富で、全身の影響を受けやすい臓器です。とくにネフロン(腎単位)や糸球体といった微細構造は、病気の履歴をかたちとして残します。
従来、糸球体基底膜の詳細な観察には透過電子顕微鏡(TEM)が用いられてきましたが、観察できるのはごく限られた一部分のみという弱点もありました。
しかしLVSEMならば、光学顕微鏡で用いるパラフィン切片をそのまま用い、広い範囲を一度に観察できます。
LVSEMの臨床上のメリット
・広域観察が可能
・同一切片で光学顕微鏡との対比ができる
・病変のばらつき(ヘテロジェナリティ)を定量化できる
・保存標本の再解析が可能
たとえば遺伝性腎疾患の代表であるアルポート症候群では、患者ごとに病変の程度が大きく異なります。川西先生はLVSEMを用いて基底膜の異常を広範囲に解析し、重症度の違いを定量化する研究を進めています。
「限られた糸球体だけでは見えなかった多様性が、広域観察によって見えてきました」
もっとも、研究は決して簡単ではありませんでした。
「広域観察は言葉で言うほど簡単ではありません。1枚撮影するのに1分近くかかることもあり、100枚撮れば100分です」と本田先生は言います。
糸球体1つを解析するだけで何時間も必要になり、人的負担は大きく、実用化には壁がありました。
そこで鍵を握るのがAIです。川西先生は語ります。
「遺伝子情報は膨大にあります。でも、どの遺伝子異常がどんな形態変化を生むのかはまだ十分に整理されていません。そこにAIを活用できる可能性があります」
現在、日立ハイテクとの共同開発により、撮像の自動化や画像解析の効率化が進められています。AIが広範囲画像を解析し、異常パターンを抽出することで、病理医の負担を軽減しながら診断精度を高めることが期待されています。
さらに、過去に診断がつかなかった腎不全の再評価も可能になります。遺伝子解析が進む現代において、保存標本とLVSEM解析を組み合わせれば、新たな疾患概念が生まれる可能性もあります。
川西先生は「光学顕微鏡で見えている所見が、LVSEMで見るとどの構造に対応しているのかがつながるんです。その橋渡しが大きなブレイクスルーになりました」と説明します。
たとえば、腎疾患の1つであるアルポート症候群では、Ⅳ型コラーゲンの異常が知られています。遺伝子異常と糸球体基底膜の形態変化が結びつくことを、LVSEMはより直感的に示すことができます。
近年、医学研究ではゲノミクス、プロテオミクス、グライコミクスなどのオミクス解析※4が急速に進歩しています。さらに空間遺伝子解析※5により、どの細胞が、どこで、どの遺伝子を発現しているか、組織切片上で分かる時代になりました。
しかし「遺伝子情報が大量にあっても、それがどんな形の変化につながるのかを理解しないと、本当の意味で病気を捉えたことにはなりません」と川西先生は慎重な姿勢を崩しません。
「AIは忠実に学習しますが、どこを見るべきかを決めてきたのは人間です。長年の訓練で、病理医は本質を掴む目を養ってきました」と人の役割の重要性は変わらないことを強調するのは本田先生です。
AIに大量の画像と遺伝子情報を学習させれば、この遺伝子異常ならこの形態変化が起きると予測できる可能性があります。一方、人間は経験から重要な所見を抽出します。
「人間こそ、能動的なAIなんです」と本田先生は笑います。
川西先生も「やはり、自分の目で見て信じられるクオリティの画像にこだわりたい。納得できるクオリティの画像を効率よく撮影し、それをAIに学習してもらうためにLVSEMは有効だと思っています」と語ります。
LVSEMとAIの社会的意義
1. 医療安全の向上
AIと高精細形態解析を組み合わせることで、診断の再現性と精度が向上します。希少疾患や複雑な腎疾患でも、より客観的な判断が可能になります。
2. 医療格差の縮小
画像データを共有し、AI解析を活用すれば、専門医の少ない地域でも高度な診断支援が可能になります。ただし川西先生は「画像のクオリティを誰が担保するのか。それが大きな課題です」と指摘します。
3. 人材育成の進化
本田先生は「AIを相棒にして、人間はもっとクリエイティブな段階へ進めるはずです」と期待を込めます。AIが基礎的診断を補助すれば、若手の研究者はより早く研究的思考に到達できます。
※4 ゲノミクス(DNA:遺伝子の構造・機能の網羅的解析)、プロテオミクス(タンパク質:タンパク質の機能的活性、修飾状態の直接評価)、グライコミクス(糖鎖:糖タンパク質、糖脂質の多様性の解析)は、生命現象を網羅的に解析する「オミクス研究」の基盤。ゲノムで「設計図」を読み、プロテオームで「機能する分子」を特定し、グライコミクスで「複雑な修飾・制御」を解析することで、疾患の解明や精密医療の実現をめざす。
※5 空間遺伝子解析は、従来の解析では欠落していた「細胞の位置情報」を保持したまま遺伝子発現を評価できる技術。病変組織の形態と遺伝子情報を直接紐付けられるため、顕微鏡観察による病理診断との高度な比較検討が可能となり、従来のシングルセル解析では困難だった新たな発症機序の解明や、より精緻な病態理解への貢献が期待されている。
1980年代以降、分子生物学の発展により病理学は分子中心へとシフトしました。しかし空間遺伝子解析で得られた情報の正しさを検証するのはやはり形態判断で、その形態判断を的確に行うためにはLVSEMのような広域で観察できる技術が非常に役立ちます。
「最終的に体の中で何が起きているかは、形態に現れます。最後のアウトプットはやはり形なんです」と本田先生はあらためて形態学の重みを話します。
遺伝子もタンパク質も、最終的には組織の構造として現れます。病気の重症度も、予後も、生活習慣の影響も、最終的には形に投影されます。
さらに重要なのは、感情です。「医学は情熱なしには成立しません」
AIは診断を補助できます。しかし、患者との関わり、剖検で受ける衝撃、病変を前にしたときの問いは人間にしか生まれません。
川西先生も「AIがどれだけ進歩しても、患者さんとの間に生まれる感情は置き換えられないと思います」と語ります。
形態を見るという行為は、単なる画像解析ではありません。そこには歴史、経験、感情、倫理が重なっています。AIはその統合を加速させるツールかもしれません。
そしてLVSEMは、その再統合の鍵となる技術です。AIは病理医に置き換わるのではなく、育てる存在になる。生まれた余裕を、人間はより深く問い続けることに集中できる。腎生検の小さな組織片から始まる未来の医療は、「見る力」と「統合する力」によって、さらなる進化が期待されています。
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