概念的には厚みの薄い培養細胞も、精製蛋白質同様氷包埋してからクライオトランスファーを使用して観察できるように思える。
しかし、精製蛋白質と比べ容積が飛躍的に大きくなることからいくつかの問題が生じる。
まず、液体エタンへの浸漬凍結では細胞丸ごと急速凍結すること(アモルファス氷により包埋すること)が難しい。仮に急速凍結できても、試料が厚すぎてよく見えない。
培養細胞では最も薄い辺縁部(cortical area)を観察したのが図1である。凍結は良好であるが厚さに依存する多重散乱のためストレスファイバーぐらいしか識別できない。
そこで、我々は膜を剥離し、薄くしてから氷包埋する方法を考えついた。非侵襲とは行かないまでも水を含んだ新鮮な膜細胞骨格を観察できる可能性があり、実際に成功した。
一方、ドイツのMax Plank研究所のBaumeisterのグループはあくまでも非侵襲性にこだわり、培養細胞の最も厚みの薄い辺縁部を材料として用いて、構造解析を試みた。
多重散乱から生じる像の不鮮明さをトモグラフィーにより解決し、同時に三次元構造も明らかにするという快挙を成し遂げた(参考文献1、2)。
しかし、多重散乱により生じる不鮮明さや分解能の低下をトモグラフィーでどこまで補うことが出来るのか問題は残る。実際、我々の観察結果と彼らの得た像の間にはかなりの質的な差が認められる。
細胞の氷包埋観察の特徴は何といっても電子顕微鏡では難しいと考えられていたnativeで水を含んだ蛋白質分子複合体の細胞内における構築を明らかにできることである。
膜細胞骨格などのクライオ顕微鏡観察はまだ始まったばかりであり、ここで紹介する方法を端緒に読者が独自の方法、考えを付加し発展させていただければ幸いである。
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参考文献