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日立ハイテク

EM Flow Creatorを用いたSEM観察フローの自動化

Automation of SEM Observation Workflow Using EM Flow Creator

設楽 宗史

はじめに

走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、得られる情報の豊富さや試料の取り扱いが比較的簡便なことから、ナノテクノロジー、半導体・エレクトロニクス、ライフサイエンス、材料などの幅広い分野において、微細構造の観察から計測、分析まで活用されている。また情報処理技術の進展に伴い、大量のデータ取得を必要とするデータ駆動型研究開発が活発化しており、SEMにおいても大量データを自動かつ短時間で取得でき、さらには自動化実現にかかるユーザーの操作負荷や属人性の低減が求められている。
そこで日立ハイテクでは、様々な分野かつ要求に柔軟にこたえられる自動化支援機能として、EM Flow Creatorを開発した。本稿では、EM Flow Creatorの特長とその適用事例を紹介する。

観察ワークフロー自動化支援機能 EM Flow Creator

EM Flow Creatorは、様々な観察ワークフローの自動化を実現するためのSEM観察レシピを作成・実行するソフトウェアである。ビジュアルプログラミング技術を採用することで、“順次実行”、“繰返し”、“条件分岐”といった処理がノーコード、かつ視覚的な操作で実現される。
図1に複数試料を自動観察する際の一般的な観察ワークフローとEM Flow Creator操作画面を示す。

図1 観察ワークフロー例とEM Flow Creator操作画面

図1 観察ワークフロー例とEM Flow Creator操作画面
(a)観察ワークフロー例、(b)EM Flow Creator操作画面

EM Flow CreatorのSEM観察レシピは、ブロックリストから必要なブロックを選択し、レシピ作成エリアにドラッグ&ドロップで処理を行う順番に並べ、またブロックごとにパラメータを設定することで作成できる。ブロックリストには、加速電圧の設定、ステージ移動、オートフォーカスなどのSEM制御を実行するブロックの他に、四則演算を行うブロックや条件判定を行うブロックなどが多数存在する。またブロック間で入出力パラメータを受け渡すこともできる(図1(b))。これらにより図1(a)に示すような観察ワークフローを容易かつユーザーの技量に依存せずに自動化が可能である。
なお観察ワークフローの内容によっては、ブロックリストに存在しない処理が必要な場合がある。そのためEM Flow Creatorには、様々なプログラミング言語の中で最も利用されているスクリプト言語であるPython形式1)のスクリプトを実行できる機能を備えており、高い拡張性も持ち合わせている。

EM Flow Creatorを用いた自動化事例

リチウムイオン電池正極活物質粒子の自動観察

リチウムイオン電池(LiB:Lithium-ion Battery)正極材の自動観察事例を示す2)。LiB正極活物質では、電池の内部抵抗を減少させる目的で微粒化や高充填化が進められており、粒径や形状を管理するためにSEMを用いた粒子計測が行われている。本事例では、画像認識を用いた特定粒径・形状の粒子の探索と、特定粒子についての高倍率表面形状観察を自動化した。

図2 リチウムイオン電池正極材の自動観察事例

図2 リチウムイオン電池正極材の自動観察事例
(a)観察ワークフロー、(b)500x 二次電子像、(c)5 kx 二次・反射電子像、(d)35 kx 二次・反射電子像
(装置:SU8700, 加速電圧:1 kV、検出器:Upper検出器+Middle検出器)

本観察では、500倍の低倍率画像を取得後、視野内から画像認識により特定粒子を探索する。類似度の高い粒子が存在した場合は、図2(b)のように特定粒子を緑矩形で示した探索結果画像を保存後、特定粒子が視野中心となるようにステージ移動やイメージシフトで視野移動を行い、5,000倍(図2(c))および35,000倍(図2(d))の中・高倍率で二次・反射電子像の同時取得をしている。このように特定粒子の探索から、粒子全体とその表面構造および組成情報の詳細画像取得を自動化可能である。

LiBセパレータの多点自動撮像

LiBセパレータの多点かつ複数倍率での自動観察事例を示す3,4)。LiBの製造過程における品質管理では、セパレータの厚さや細孔構造、表面微細構造の評価が求められている。本事例では、製造条件が異なる試料を複数搭載し、それぞれについて複数倍率で画像取得することによる構造比較を自動化した。

図3 LiBセパレータの多点自動観察事例

図3 LiBセパレータの多点自動観察事例
(a)試料台模式図と自動撮像順、(b)50 kx・80 kx・100 kx 二次電子像、(c)100 kx 二次電子像
(装置:Regulus8200、加速電圧:1 kV、検出器:Upper検出器)

本観察では製造条件の異なるLiBセパレータフィルム3種類(A、B、C)を用い、図3(a)に示すように、2検体ずつ試料台に固定した。また観察時の構造変形などを最小限に抑えるために、矢印の示す方向で、観察倍率毎に視野を変更しつつ観察を実施した。図3(b)が50,000倍、80,000倍、100,000倍の二次電子像、図3(c)がセパレータ3種類(A、B、C)の100,000倍の二次電子像での構造比較である。高分解能で観察することで、イオン透過性など電池性能に影響を与える繊維幅や孔径、表面の微細な凹凸を捉えることができ、また大量データを安定的に取得することで各セパレータの構造の違いを把握することができた。

半導体デバイスパターン断面の自動観察

半導体デバイスパターン断面の自動観察事例を示す5)。半導体製造の前工程では、様々な工程の後にデバイスパターン断面のSEM観察を行い、形状確認や測長を行い、プロセスの評価を行っている。

図4 半導体デバイスパターン断面の自動観察事例

図4 半導体デバイスパターン断面の自動観察事例
(a)観察ワークフロー、(b)800 x 二次電子像、(c)250 kx 二次電子像
(装置:SU9000Ⅱ、加速電圧:5 kV、検出器:Upper検出器)

本観察では、図4(b)に示す幅が約35 μmの領域に作成された微細パターン形状を、図4(c)のように250,000倍で連続撮像した。なお250,000倍での撮像前には都度、画像処理によりパターンが視野中心となるように視野補正を行っている。視野補正を含めても合計56視野を約15分で撮像することができ、ユーザーが手動操作で観察する場合と同程度の時間でのデータ取得が可能であった。

ウイルス計測用センサー電極

ウイルス計測用センサー電極における自動観察事例を示す。ウイルス計測用センサー電極は、図5(a)に示すようにSi基板上に約10 μmのギャップを持つ電極構造を持ち、そのギャップ間に付着しているウイルスを計測するデバイス(バイオセンサー)である。SEM観察の目的は、この電極ギャップを連続撮像していき、実際にどのくらいのウイルスが存在するかを確認することである。

図5 ウイルス計測用センサー電極の自動観察事例

図5 ウイルス計測用センサー電極の自動観察事例
(a)光学像およびギャップ電極模式図、(b)10 kx 二次電子像、(c)300 kx 二次電子像
(装置:SU8600、加速電圧:3 kV、検出器:Upper検出器)

本観察では、まずギャップ電極の位置を登録した座標リストを読み込み、電極端の近傍にステージ移動する。その後、正確にギャップ電極間を観察するために画像認識を用いて視野補正後、その位置を開始位置としてギャップ電極間を連続撮影していく(図5(a))。また1つのギャップ電極を撮影したら次の電極へ移動し同様の撮影を繰り返した。図5(b)が10,000倍の連続撮影した二次電子像、図5(c)がギャップ電極間に存在したウイルスを手動で300,000倍にて観察した二次電子像である。本観察では、30箇所のギャップ電極をそれぞれ11視野、合計330視野の観察が必要であり、ユーザーの手動操作と比較した場合は、2時間半の省力化効果が得られた。

まとめ

EM Flow Creatorを用いた様々なSEM観察フローの自動化事例を紹介した。このようにEM Flow Creatorは、多様な観察フローに柔軟に対応でき、安定した連続動作での大量データ取得が可能である。本ソフトウェアにより、ユーザーの操作負荷を低減させ、データ取得や解析のさらなる促進が期待できる。

参考文献

1)
安藤:プログラミング言語利用実態調査2021:日経コンピュータ, 2021年8月5日号 pp.46-53
2)
日立ハイテク会員制サイトS.I.navi, アプリケーションデータシート HTD-SEM-207
3)
日立ハイテク会員制サイトS.I.navi, アプリケーションデータシート HTD-SEM-182
4)
日立ハイテク会員制サイトS.I.navi, アプリケーションデータシート HTD-SEM-172
5)
日立ハイテク会員制サイトS.I.navi, アプリケーションデータシート HTD-SEM-213

著者紹介

設楽 宗史
(株)日立ハイテク コアテクノロジー&ソリューション事業統括本部  CT システム製品本部 CT ソリューション開発部

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