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日立ハイテク
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Documentary

挑戦するサービスエンジニアたち

コロナ禍を乗り越えて

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大は、お客様の施設への訪問を基本とするサービスエンジニアにどのような影響を与えたのか、そして彼らはそのピンチをどのように乗り越えたのか、サービスの現場の最前線を紹介します。

並木 望なみき のぞみ

静岡サービスセンタ

顔を見せるだけで、病院の検査室の大勢のスタッフが安心する。そんな厚い信頼を受ける医用機器のサービスエンジニアがいる。静岡サービスセンタの技師、並木望。
若手時代から、保守点検の間に生じる空白期間を「自主巡回」でカバーし、双方向のコミュニケーションによって顧客との信頼関係を築いてきた。
しかし、2020年に始まったコロナ禍は、世界のあらゆる場所で人々の距離を遠ざけ、コミュニケーションを奪った。その危機を並木はどう乗り越え、何を得たのか。その軌跡を紹介する。

作業中の並木氏の様子(実際の作業時には作業帽・手袋などを着用しております。)
※実際の作業時には作業帽・手袋などを着用しております。

人見知りの自分を変えたくて

2007年春、日立ハイテクフィールディングに、1人の新入社員が入社した。都内の大学の理工学部を卒業した、並木望。大学時代、医療機器に興味を持ち、磁気を利用した心臓カテーテルの研究に取り組んだ並木は、医用部門のサービスエンジニアとして活躍するという夢を持ち入社。その年の12月には、名古屋にある中部支店でサービスエンジニアとしての第一歩を踏み出した。

並木が大学で学んだのは、理工学部の中でも精密機械を専門とする学科だ。同級生の多くは、メーカーの設計・開発部門への就職を希望していたが、並木は医療機器に関する仕事の中でも、設計ではなく、現場でメンテナンスを担うサービスエンジニアになることを選んだ。サービスエンジニアという仕事を志したのには、わけがある。社内にこもって仕事をするより、会社の外に出て、実際に装置を使っている人に会いたい、使っている人とコミュニケーションを取りながら医療の役に立ちたいと思ったからだ。ただ、理由はそれだけではなかった。

「すごく人見知りなんですよ。その性格を変えたくて。使っている人と“話したい”というより、“話せるようになりたい”という思いもありました」

中部支店での仕事は、先輩に付いて業務を覚えることから始まった。はじめは自分の役割をこなすことで精一杯。しかも人見知りで、初対面の人との会話は大の苦手だ。客先で先輩と保守点検をしても、必要なことを伝える以上の会話をする余裕など、全くなかった。

「昨日点検したんだよね?」

そんな並木に、その後のサービスエンジニア人生に大きな影響を与える出来事が起きたのは、入社2年目を迎えたばかりの頃だった。きっかけは、前日に先輩サービスエンジニアが保守点検を終えたばかりの病院から入った連絡だった。「昨日見てもらった自動分析装置にトラブルがあったので来てほしい」。急いで対応しなければならない案件だが、前日の点検を担当したサービスエンジニアが対応できず、代わりに並木が1人で修理に向かうことになった。

病院の検査室に着き、復旧作業に取りかかると、その様子を見ていた病院スタッフが、そばにいた同僚にぼそりとつぶやいたのが聞こえた。 「この装置、昨日点検したんだよね?」

それを聞いた瞬間、並木は言いようのないショックを受けた。病院スタッフの言葉は、「昨日点検したばかりなのにもうトラブルが起きたのか」という非難めいた意味だったのかもしれない。ただ、それ以上に並木がショックを受けたのは、わずか1日前に数時間かけて行った保守点検が、もしかしたら顧客の記憶に残らない「やったかどうかわからないこと」になっていたかもしれないことだった。この時のことを並木は10年以上経った今も忘れられず、フラッシュバックすることもあるという。

その日から並木は、客先で二度と「点検したんだよね」と言われないために、何をすればいいのかを本気で考え始めた。まだ知識や技術が発展途上の自分でも、何かできることはあるはずだ。そう思い悩んだ末に、並木がたどり着いた答えは、「掃除」だった。

「医用の装置は血液で汚れてしまうことが多いので、点検した後にきれいになっていたら、見ただけで違いが分かるじゃないですか。だから、とにかく装置をピッカピカにすれば、少なくとも『点検したんだよね?』とは言われないんじゃないかなと……」

今考えるとちょっと浅はかなんですけどね、と本人は苦笑するが、そのアイデアを並木は愚直に実行に移した。この時から、点検や修理の後、装置を外側まで「ピッカピカ」に磨き上げることが、並木のルーティンになった。装置は、外側が多少汚れていたとしても、検査の精度や結果に影響はない。それでも並木は「ピッカピカ」にこだわった。そしてその姿は、次第に顧客の検査技師の目に止まるようになった。「ここまできれいにしてくれるなんて」「掃除は私たちの仕事なのにごめんね、ありがとう」、そんな言葉もかけられるようになったという。

そうして1年ほどが過ぎ、並木は名古屋から当時の金沢出張所へ異動が決まった。異動する直前、上司がサプライズでちょっとしたプレゼントをくれた。装置周辺の掃除に使える便利グッズだった。並木が訪問先で掃除をしていることは、どこからか上司にも伝わっていたのだ。その時上司にもらった洗剤タンクが付いたキッチン用たわしを使って、今も並木は顧客先を訪問するたびに装置を「ピッカピカ」に磨き上げている。

メンテナンス後、並木は装置を「ピッカピカ」に磨き上げる

「自主巡回」スタート

金沢出張所で並木は、現在自らの仕事の中核に位置づける、ある業務をスタートさせた。それが「自主巡回」だ。一般的に、保守・点検をメイン業務とするエンジニアの多くは、定期点検や保守計画に合わせて顧客を訪問し、必要な業務を行う。並木の自主巡回は、決められた点検スケジュールや修理依頼への対応とは別に、いわば「何でもない日」に顧客を訪問するというもので、装置の動きをチェックし、異常がなければ検査室のスタッフと話すだけで終わることも多い。

実は自主巡回は、金沢出張所の上司が前任地時代から続けていた活動だった。金沢出張所には上司と並木の2人だけ。小さな出張所だからこそ自ら動かなければならない、と考えていた上司の勧めで、並木も始めることになった。中部支店時代は先輩と一緒に顧客を訪問することが多く、お客様と1対1で会話する機会もあまりなかった。しかし、金沢ではそうはいかない。文字通り「独り立ち」のタイミングだった。

1人で自主巡回を始めてみたものの、顧客を訪問しても、何を話していいのかが分からない。とりあえず装置を動かし、話のネタになることがないか探してみるものの、ほとんどの場合、話題になるような問題は見つからない。「大丈夫ですね。何かお困り事はありませんか?」と聞いてみて、「ありません」と返事が返ってくると、それで会話が終わってしまうこともあった。

それでも、続けているうちに並木は自分でも変化を感じるようになった。同じお客様と繰り返し顔を合わせているうちに、少しずつだが、自然に会話が続くようになったのだ。金沢出張所から兵庫サービスステーションへ移っても、並木は自主巡回を続けた。2013年4月、現在も所属する静岡サービスセンタへ異動したころには、自主巡回にもすっかり慣れ、お客様とコミュニケーションを取る重要性と楽しさも感じられるようになっていた。

七つ道具が入った携帯かばんを手にサービスカーへ

小さな違和感をすくい上げる

静岡市にある総合病院は、30を超える診療科と718の病床を有する、静岡県の中核的医療施設だ。この病院の検査技術室に日立ハイテクの自動分析装置が2台導入されたのは、並木が静岡に配属される少し前のことだった。

「前任がベテランの方だったので、並木さんが初めて来た時は、若い方が来たなというのが第一印象でしたね。僕と同世代くらいで、話しやすそうだなと思いました」

そう話すのは、検査技術室で生化学免疫部門を担当する臨床検査技師の村越大輝さん。並木とは10年以上、毎月顔を合わせている、関わり合いの深いお客様の一人だ。この病院では、メンテナンスの担当者が検査技術室を訪れるのは、保守点検やトラブルがある時に限られる。会話の内容も、点検や修理の結果報告が中心だ。ただし、並木は違った。年3回の保守点検のほかに、自主巡回で月に1回は検査技術室に足を運び、村越さんたちと顔を合わせていろいろな話をした。

装置のトラブルは、はっきり異常と分かるものだけではない。「いつもと違う音がする気がする」「ノズルが少し曲がっているかもしれない」といったわずかな違和感は、あったとしても、装置が動いていてデータに不備がなければ、それだけですぐにサポートセンタに電話をする顧客は少ない。さらにそうした小さな違和感は、後になって「気になることはありませんでしたか?」と聞かれても、すぐには思い出せないことも多い。

並木は、自主巡回の何気ない会話からそうした違和感を丁寧にすくい上げ、大きなトラブルにつながる芽を事前に摘んでいった。顧客側から情報をもらうだけでなく、並木からも気になることは積極的に伝えた。双方向のコミュニケーションが成り立っていたからこそ、村越さんたちは並木の作業や提案を納得して受け入れ、信頼して任せるようになったという。

「違和感があっても、すぐに直した方がいいのか、保守点検まで待ってもいいのか、僕らでは判断が難しい。並木さんが巡回に来てくれてすぐに聞けるのは、すごく助かりました。点検でも、劣化が速い部品があれば『次回交換しますね』と教えてくれるので、次の点検の準備や時間の見通しが立てやすい。何より、コミュニケーションが取れているのでしっかり見てもらえている感覚が強く、安心できるんです」

もう一つ、村越さんが並木に信頼を寄せるようになった理由がある。それが、名古屋時代から並木が続けてきた「ピッカピカ」にする掃除だった。「初めて見た時は、そんなこともするんだとびっくりした」と村越さんは言うが、毎回きれいに掃除をしていく姿に「機械を大切にする人だな」と並木の人柄を感じたのだという。

「カバーが汚れていても、データには影響しないじゃないですか。きっと本当はやらなくてもいいことなのに、いつもピカピカにしてもらって。そういうことの積み重ねが、信頼には大事なんですよね」

10年以上の付き合いになる臨床検査技師の村越さんと
メンテナンス後、並木は装置を「ピッカピカ」に磨き上げる
七つ道具が入った携帯かばんを手にサービスカーへ
10年以上の付き合いになる臨床検査技師の村越さんと

コロナ禍という試練

2020年、自主巡回でのコミュニケーションを通して、顧客との信頼関係を深めてきた並木に試練が訪れた。新型コロナウイルス感染症の拡大だ。2019年12月に中国・武漢で初の感染者が確認された新型コロナは、年が明けると日本国内でも猛威を振るうようになった。急速に広がる感染拡大を食い止めるため、2020年4月7日に東京など7都府県に、16日には静岡県を含む全国に緊急事態宣言が発表され、あらゆる場所で社会生活がストップした。日立ハイテクフィールディングでは、顧客を訪問する社員に、過去2週間にわたって感染者との濃厚接触がなく、体温が37.5度以下で体調不良もないこと、マスクや手袋、安全メガネを着用することなど、感染防止対策を徹底するよう指示。さらに緊急事態宣言後の4月28日には、打ち合わせや作業を「可能な限り一時中断・延期」するよう顧客にも依頼した。

その頃、医療機関は、新型コロナへの対応で混乱を極めていた。しかし、もちろん検査装置を止めるわけにはいかない。静岡県内の多くの病院では、定期的な保守点検や装置の修理は感染防止対策を取りながら続けられていたが、一方で、不要不急の訪問は当然禁じられた。それは、並木が続けてきた自主巡回ができなくなるということでもあった。

自主巡回がストップして並木が一番に感じたのは、「不安」だった。会話の手段が対面から電話やオンライン会議に変わると、途端にコミュニケーションの取りにくさに悩まされた。マスクをしているので相手の表情が読み取りにくく、回線越しでは検査現場の空気が伝わってこない。相手の状況に配慮して会話が効率的になり、話の“余白”がなくなった。並木が自主巡回で小さな困り事を拾えたのは、その余白があったからこそだった。「この話をしよう」と決めてしまうと、その話だけで会話が終わってしまう。何気ない会話の中で「そういえば」と小さな違和感を話してもらうチャンスがなくなり、今までキャッチできていたトラブルの芽を見逃してしまうのではないか。そんな不安に襲われたのだ。

自主巡回がなくなって不安を感じたのは、病院側も同じだった。必要な時は並木に来てもらえるとはいえ、期間が空くとどうしてもちょっとした困り事や質問がたまっていった。村越さんは、電話で頻繁に並木と話してはいたが、「やっぱり来てくれる方が安心だなと思うことはありました」と振り返る。一方で、そうした互いの不安は、今まで双方向のコミュニケーションを積み重ねてきたからこそ感じる不安だったとも言える。巡回に行けなくなり、並木には物理的な時間の余裕は生まれたが、精神的には楽になれない状況が続いた。

「電話でのコミュニケーションには不安を感じた」という並木

コミュニケーションの課題を見える化

コロナ禍のコミュニケーション不足と、それに伴う不安は、改めて自主巡回の重要性を並木に感じさせるものだった。ただ、不安を感じながらも、並木は電話口でも相手のちょっとした声のトーンや話し方の違いで検査室の状況を感じ取ることができたし、病院の検査技師たちは、気になることがあれば直接並木に電話で相談することができた。不安を乗り越える力になったのもまた、これまで自主巡回で築いた顧客との関係性だった。

さらに、並木は自主巡回機会の減少による顧客満足度の低下を防ぐため、社内の小集団活動「ACTプラス1」で、サービスサイエンスを活用したカスタマーサービス向上の研究に取り組むことにした。サービスサイエンスとは、目には見えないサービスを科学的・論理的アプローチで捉えて分析する手法で、並木は活動のリーダーとしてサービスエンジニアのサービスを細かく分解・分析し、顧客が期待するポイントや努力すべきポイントを見つけ、それを実現するプロセスをモデル化した。さらにそれを現場で実践し、顧客満足度の向上を図っていった。

現状分析には顧客アンケートを活用。作業時の事前確認や製品の理解力、期日管理など顧客の満足度を測る指標が数ある中、静岡サービスセンタ管轄の医用関連顧客の傾向としてはサービス技術者のマナーが重視されていることに着目。サービスプロセスモデルの中でも、礼儀正しさやあいさつ、言葉遣いに重点を置いてコミュニケーションを改善し、翌年の顧客アンケートでは、評価を向上させることができた。並木にとって、これまで経験則で取り組んで来た顧客対応の流れが、モデルとして可視化されたことは大きな成果だった。さらに取り組みの結果、コミュニケーションの改善は顧客からの評価を高めることも証明され、今までやってきたことの手応えも感じることができたという。

休憩時間、同僚とのコミュニケーションも大事にしている

これからの目標は「変えないこと」

自主巡回を再開した今、マスク越しで以前よりは表情が分かりにくくなったものの、その分、相手の言葉遣いや態度に注意を払い、現場の雰囲気を読み取る意識はさらに強くなった。表情や雰囲気といった言葉以外のものを読み取る力は、コロナ禍を経たからこそ高められたコミュニケーション力と言えるかもしれない。

「コミュニケーションを大切にしてきたことは、間違いではなかった」

コロナ禍のさまざまな経験を経て、並木は今、改めてそう実感している。だからこそ、これから先の目標は、「変えないこと」だと言い切る。コミュニケーションを重視した自主巡回を続けていくことが、顧客の信頼につながるという自信が付いたのだろう。

総合病院の村越さんがこれからの並木に期待することもまた、「このまま変わらないでいてくれること」だ。並木が静岡に着任する少し前に入った自動分析装置は、導入から10年以上が経過し、更新の時期を迎えた。後継機を選定するにあたり、村越さんたちは迷わず日立ハイテクの装置を選んだ。装置自体の性能だけでなく、並木の自主巡回をはじめとする保守サービスの手厚さを評価してのことだった。

「今の装置は13年ほど経っていますけど、まだデータの劣化もなく使えます。ここまで長持ちしているのは、並木さんにきちんと見てもらってきたからなんじゃないかと思うんです。これから入る日立さんの新しい装置も、今まで通り、変わらずに見ていただけると私たちは安心です。そこはすごく期待しています」

並木には、「変えないこと」の先に思い描いているサービスエンジニア像がある。メンテナンスも、装置の更新の提案も、顧客の困り事への改善提案もできる、お客様との距離が近いサービスエンジニアだ。

「たとえば、車をディーラーで点検してもらう時、車のユーザーと話すのは営業担当で、メンテナンスをする人はメンテナンスだけをしますよね。ユーザーとメンテナンスをする人が話すことって、ほとんどない。ただ僕は、メンテナンスするだけの人になるのは嫌なんです」

メンテナンスの確かな腕を持つだけでなく、顧客の願いを汲み取り、それに応える仕事をする。そのための手段が、並木にとっては自主巡回とコミュニケーションだった。今の並木にとって、自主巡回は装置を見ることが目的ではない。むしろ、会話してコミュニケーションを取ることにこそ、巡回の本質がある。

「一方通行のコミュニケーションではなく、双方向できちんと会話をしたい。それが僕の理想です。今は、それができていると思います。これからほかの拠点に移ることがあっても、また一からコミュニケーションを取り、信頼され、お客様が満足するサービスを届ける存在でありたい。そう思っています」

誰よりもお客様に近いサービスエンジニアをめざして。並木は今日も笑顔で顧客のもとへ足を運び、コミュニケーションを重ねている。

「双方向できちんと会話をしたい」それが並木の理想だという
「電話でのコミュニケーションには不安を感じた」という並木
休憩時間、同僚とのコミュニケーションも大事にしている
「双方向できちんと会話をしたい」それが並木の理想だという
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